『子どものために尽くす親』と『親に認められたいと思う子ども』──このような親子関係のあり方は一見、健全なように見えますが、いつの間にか『共依存(きょういぞん)』になっていることがあります。共依存とは、精神的な距離が近過ぎてお互いが見えなくなる状態です。そうなると『あなたはあなた』『私は私』という考え方ができなくなります。
Aさんの場合、逆に志望校に合格していれば親子の依存関係はそのまま機能していたかもしれませんが、異常接近した親子の『共依存』関係はいずれ無理がきてしまいます。
このようなケースでは、受験生にしてもその親にしても、とくに『自分自身』との向き合い方が課題となるのです」
「自分自身と向き合う」とはどういうことか。つらいこと、悲しいこと、イヤなこと、苦しいこと──そういったマイナスの出来事に遭遇すると、人はそれをストレスに感じる。そのため、それらの出来事から目を背けたり、現実逃避したりする人も多い。しかし、それでは必ずしも問題は解決しない。そうであれば、目の前の出来事をどう捉えるか、その「捉え方」を自分なりに見直していくことが必要になる。それが「自分自身と向き合うこと」だと舟木氏はいう。
「ストレスを感じるような出来事に遭遇しても、人によってその捉え方はさまざまです。些細な失敗にすぎないのに、『自分は何をやってもダメなんだ』と感じる人もいれば、それと同じ出来事に遭遇しても『次は頑張ろう』と前向きに考えられる人もいます。同じような境遇にありながら、前向きに生きている人と、その逆の人がいるのです。
それは、受験や競技会への出場、ここ一番という時のプレゼンテーションなどでも同じことがいえます。これらの出来事は、普通に考えれば大きなプレッシャーになりますが、人によっては、プレッシャーゆえによい結果を残せたりします。
たとえば、直前までスランプに陥っていたアスリートが本番で新記録を出すことがありますし、周りから絶対に受からないといわれていた学校の試験に合格することもあります。これらを『まぐれ』や『番狂わせ』という言葉で片づけるのは簡単ですが、実はちゃんと必然性があって、よい結果を出した場合もあるのです」
受験は、多くの子どもが直面する人生の試練の一つ。失敗すれば、親子ともども落ち込んだり、不安にさいなまれたりもする。そんな逆境になっても、それを受け入れ、前向きに次のステップを考えられるかどうか──。受験は、子どもだけでなく、その親も試される。まずは、目の前の現実と自分自身に向き合うことが大切ということだろう。
【プロフィール】舟木彩乃(ふなき・あやの)/ストレス・マネジメント研究者。10年以上にわたってカウンセラーとしてのべ8000人以上の相談に対応。現在、筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻(3年制博士課程/ストレス・マネジメント領域)に在籍。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』。