Aさんは、受験に失敗して自信喪失しているところに、一番の理解者であり応援者であったはずの母親から、自分の存在を否定されるような言葉を投げつけられた。そして、この一言に大きなショックを受け、いわゆる「燃え尽き症候群」に陥ったという。
「目標に向けて献身的に努力したのに、期待した成果が得られなかった結果感じる徒労感や欲求不満などから、何もかもやる気が起きなくなってしまったのです。
その後、Aさんはほかの高校へ入学したものの、学校にも家にも自分の居場所がないと感じるようになり、高校も休みがちになりました。Aさんは自分の居場所がないことについて、『自分は生きている価値のない人間』だから仕方ないと思い、むしろ居場所がないつらさは『まわりの期待に応えられなかった自分への罰』であるとさえ感じていました。
一方の母親も、理性をなくしてAさんを責めてしまったことを激しく後悔していました。子どもとの向き合い方がわからなくなり、家事をするエネルギーや意欲がなくなってしまったのです」
◆問題は「自分自身」との向き合い方
Aさん母子の抱えている表面的な問題は、受験失敗をきっかけとした燃え尽き症候群だが、この問題を根本的に解決するためには、そうなった原因を丁寧に掘り下げていくことが必要になるという。
「まず、Aさんのカウンセリングでは、Aさん自身が『その高校でなければならない理由はなんだったのか?』を掘り下げて考える必要がありました。子どもは誰でも母親に愛されたいと思います。Aさんは、その志望校に合格することで『お母さんを喜ばせたかった』『自慢の子どもになりたかった』そうです。Aさんにとっての志望校合格は、ある面で“母親に愛されるため、認めてもらうため”の行為だったのかもしれません」
Aさんのように、子どもは「親に愛されたい」「気に入られたい」という思いから自分の本当の意思がわからなくなり、本来の自分の姿を見失っていくことがあるのだという。
「次に、母親のカウンセリングでは、ありのままのAさんではなく、“成績優秀な自慢の子ども”としてのAさんを愛していたのかもしれない、という告白がありました。そして『いつの間にか自分は、子どもの人生の中に自分を投影して生きていたのだろう』とも話していました。