「時代劇役者という表現者としての始まりですね。あのおかげで馬も立ち回りも本格的にやらないといけないという認識を植え付けてくれたので。
当時は馬に乗ったことはほとんどなかったのですが、乗りこなせることがNHKからの条件でしたから、良い具合に乗ることができました。当時はその仕事しかしていなかったものですから、週に三、四日は御殿場で競馬上がりの馬を借りて稽古をしていました。
和鞍、洋鞍、裸馬、それぞれの乗り方の違いも自分で研究しましたし、馬から何度も落とされながら落ち方の稽古もしました。右の脛が削げて白い骨がむき出しになったこともあります。
殺陣については、その後に付かせてもらった先生と気が合いました。『実を知った上で虚をやる』という方で。実を知らない人が虚をやっても、面白くないと思うんです。嘘臭くなりますから。個人的には、昔から本物志向でありたいと望んでいて。どうすれば本当に人を斬れるか分かった上で立ち回りをやった方が、圧倒的に説得力が出ると思うんですよ。現場によっては、相手が本気で怖がることもあります。こちらも本気で殺す気でやっていますから」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2019年2月8日号