「全く抵抗感はないですよ。歳とともにそういう役が来ることは、とても嬉しい。本当はもうちょっとメインに喰い込みたい気持ちはあるんですけど、なかなかね。一部で目立って印象的な役も楽しいのですが、王道の役もやってみたいですね。
歴史というのは後世の方々が作ったものが多い。ですから、誰がどう悪いというのはあくまでその作家なり脚本家なりが書いたことなんです。みんな必死こいて生き残りを賭けてやったことの結果が、後世になって悪役なり良い役なりになる。それが私の持論です。主役が変わればまた真逆の見方にもなります。
歴史の面白さは、そうやって切り取り方次第でいろいろな見方ができることですから、役を頂いたからには目一杯その脚本に沿った演じ方をしたい」
〇六年の時代劇シリーズ『逃亡者おりん』(テレビ東京)でのヒロインを冷酷に追い込む植村道悦など、近年は悪役も多い。
「現代劇でも時代劇でも、悪役のやっていることって日常でやるとお縄になるだけなんですよね。でも、おそらくみんなの心の中のどこかにはダークな一面があって、多かれ少なかれそういう妄想を抱くことがあると思うんです。それを大手を振ってやれるわけですから、こんな楽しいことはないですよ。道悦なんて、自分の配下でも気に入らなかったら平気で殺していますからね。それも無表情のまま。あれはあまり感情に左右されない男として役を作ってきたんで、細かい表情を作るよりは、無表情の方が気持ち悪さとか怖さが出ると思いました。
時代劇の枠がなくなっていくあの時期に、よくぞテレ東さんがやってくれたと思います。
時代劇は、現場に問題意識があっても時勢が厳しい。でも、だからといって、それに手をこまねいていたくないんですよ」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2019年3月1日号