「よしながふみさんも指摘していますが、日本の女性には性別、年齢、容姿、社会的地位など多様な縛りがあり、抑圧されているポイントが一人ひとり違います。BLはそれを解きほぐしてくれるオーダーメードのツボ押し器。凝っているところが人によって違うから、ツボの違う千差万別の関係性が描かれるのです」
多くの女性が生きづらさを抱えるなかで、BLは純粋な喜びも与える。和歌山県在住の51才主婦が笑顔で語る。
「私たちが若い頃は、好きな人に年賀状を出すだけでドキドキしましたが、高校生の私の娘世代は、スマホのクリックひとつで『あけおめ』と多くの人に伝えられて、便利になった半面、それでいいのかと疑問もあります。でもBLで描かれるのは、好きな人と一緒にいる時に知り合いとすれ違うだけで、つないでいた手をサッと離すような、胸がキュンとする恋。そんな人間らしいトキメキを知ってほしくて、娘にはあえてBLチックな作品を勧めています」
さまざまな抑圧や制約があるからこそ、人は好きになった相手との関係を何よりも大切にするのかもしれない。西さんが話す。
「人との純粋な恋愛やかかわり、恋の成就や失恋について、今の少女漫画では照れくさくて描けませんが、BLなら描くことができます。男の子と女の子がただ出会って恋をするという、初期の少女漫画が目指していた美しい理想が、純粋な形で今も残るものこそがBLです。だから多くの女性は、BLに心を揺さぶられるのでしょう」
好きな人をただ愛する。そしてそんなふたりは対等―まさに理想の愛の形ではないだろうか。
※女性セブン2019年3月7日号