大関昇進を確実にした翌25日の会見でも、貴景勝の表情はほとんど変わらない。一夜明けた今の気持ちを聞かれても「ほっとした気持ち」と答え、その顔に笑みはない。勝った瞬間について聞かれても「(昨年九州場所で)優勝した時は頭が真っ白になりましたけど、今回はだるくなるような感じでした」と、淡々と答えるのみ。優勝後、「力士だから笑う必要はない」と言っていたことや他の番組で「あまり感情を表さないことが粋である」と語っていたことを思い出した。
ポーカーフェイスを装うことで、感情を抑え、表に出さないようコントロールしているのだ。このように表情を使って感情をコントロールするにはいくつかの方法がある。貴景勝のように感情を表に出さないようにするには、感情を自ら弱めて平静を装う「感情の弱化」や、感情を感じていないように装う「中立化」が使われる。
それでも、先場所から今場所までの重圧について聞かれると、表情は微妙に動いた。会見中、話をしながら軽く頷くことが多かったが、「チャンスは何度も巡ってこない」と話した時は深く頷いた。その後、眉毛を一瞬上げると「いつでもチャンスは巡ってくるよと言ってくれる人もいるが、」と話し、続けて「やっている方からしたら、何度もチャンスは巡ってこない」と眉根を一瞬、わずかに寄せた。勝負の世界にいれば、運命を左右するチャンスは滅多になく、それをモノにするのは難しいというのが実感なのだろう。
「どんな大関になりたいか」と聞かれた時も、眉がピクリと動く。その仕草から、横綱が目標である貴景勝にとって、その質問は愚問では、と感じた。だが、この質問にも、「次の番付(横綱)を目指すのが当たり前」と淡々と答えた。
表情が緩んだのは、四股名について聞かれた時だ。この時、貴景勝が使ったのは「感情の隠ぺい化」。「隠ぺい」というと言葉はよくないが、これは、本当に感じている感情を他の感情で隠そうとすること。
「四股名はこのままなのか、改めるのか」という質問に、「自分は」と言って間が空き、口元が動く。予想していなかった質問に、どう答えればよいか戸惑ったようだ。だが、「この四股名でやっていきたい」とふっと微笑むように表情を緩めると、片側の口の端をわずかに上げた。今の四股名が好きで、思い入れもあるのだろう。いい思い出や感情がフッと浮かんできたのかもしれない。湧き上がった感情を隠そうとしたのか、貴景勝は口の端をわずかに上げた。いや、もしかすると表情を緩めてしまった自分に苦笑いしたのかもしれない。
そんな笑わない大関が誕生する。さて大関・貴景勝は、新しい時代にどんな相撲を見せてくれるのだろうか。