「家がないと、“帰らなければ”という発想もない。すると、地方での落語会の翌日に別のイベントから声がかかって出演することもできる。仕事から仕事までの間は、すべて自分が管理できる自由な時間になったんです。それまでは仕事が終われば、東京の自宅に毎回、帰っていました。

 自宅は自分が好きなもの──パソコンやフィギュア、工具類などで埋め尽くされていて、快適そのものでした。でも、そういうものから一度離れてみると、本当に必要なものはほとんどないばかりか、人間がいかにそれに縛られているかに気が付いたんです。家があるからそこを快適な環境にしようとしてお金や労力がかかる。でも、定住地がなければ快適な環境をつくらなくてよくなる。特定の場所にホームがないから、そのときいる場所すべてがホームになるんです」

ライフスタイルに合わせて財布まで作ってしまった。自身のサイトで市販している(価格は3200円)

 彼のいうホームとは自分を受け入れてくれる居場所であり、精神的な意味でのHomeだろう。そう考えれば、人生に必要なのはHomeであって、物理的なHouseではない。彼にはHouseはないが、Homeがある。Houseのために過剰な通勤時間と過大な賃貸料やローンという代償を払い、それに縛られているにもかかわらず、そこがHomeになりえなかったとしたら……。こしら氏はいう。

「家がないと、かわいそうな人、何か問題を抱えている人と見られる。でもそういうふうに僕を見てくる人はばっさり切り捨てて、“コンビニの駐車場でカップラーメンを食べる真打の落語家”を面白いと思ってくれる人がいくらかいればいい。そう思えるようになってとてもラクになりました。プライドを捨てられるかどうか。でも、そのプライドなんて実際たいしたものではないんです」

 一方で、「家がない暮らしは誰にも勧めません」という。確かに、誰にでもできる芸当ではないだろう。だがこしら氏自身は、自由で、ある意味で快適で、何より毎日が楽しいと語る。家を持たない生活を真似るのは無理でも、彼の生き方から幸せに生きるヒントが得られそうな気はしないだろうか。

◆取材・文/岸川貴文(フリーライター)

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