ウェブを介したさまざまなサービスを巧みに使いこなすことで、彼はこの生活を可能にしている。中でも欠かせないのは、ネット通販アマゾンだ。こしら氏はアマゾンを“タンス代わり”にしているという。どういうことか。
「たとえば下着は中国から安く大量に輸入して、アマゾン内の“自分の店”の商品にする。適当に倍くらいの値付けをして(笑)、在庫はアマゾンの倉庫に置いておきます。売れたら差額が収益になるし、売れなくても自分で購入するだけ。下着が必要になるときに、次の滞在先まで配送してもらうんです。その他の服も季節ごとにアマゾンで購入して、次の季節が来たら捨てる。アマゾンが私の“タンス”なんです」
そんなライフスタイルを始めたのは、2012年に真打になったあたりからだという。地方公演を積極的に行うようになり、徐々にマンガ喫茶やビジネスホテルに寝泊まりする頻度が増えていき、それならいっそ家もなくしてしまおうと、独り暮らしの部屋を引き払った。それが今から3年ほど前。海外公演も数多くこなすようになったが、「家を持たない落語家の生活」は、前述のとおり基本的にスマホひとつで事足りるらしい。
「こういう生活をしようと考えて実行したわけではなく、気が付いたらこうなっていたんです。以前は、たとえばスマホが壊れたら自分で修理をするほど、何でも自分でやっていた。そのための工具まで持ち歩いていました。でもある時、修理部品を調べて海外から取り寄せたりしている時間や、工具を買って持ち歩く必要があるなら、お金を出して買ったほうが得だと気づいた。すると、それまでのすべてが本当に“自分がやるべき”ことなのか、“所有するべき”ものなのか、疑問に思えてきたんです」
その行きついた先が、家を持たないというライフスタイルだった。