ただし、送られてきた掲載誌を見ると、寄稿者は鉄道会社の職員や工学系の大学教授、国土交通省の官僚といったメンバーばかりで、「いかに踏切を除去して、どのように立体交差を実現するべきか?」といった議論が交わされている。「踏切は楽しい!」などと能天気なことを書いているのは私だけだ。
だが、ここで落ち込んではいられない。いまではメジャーな趣味になっている”工場萌え”だって、最初は理解してくれる人は少なかったはずだ。それが、いまや自治体から率先して工場夜景をPRし、クルーズまで催行する。
踏切だって、そうした目がないとは言い切れない。いつかメジャーな趣味になる。そう思いたい。そこで、今回は面白い踏切をいくつか紹介してみたい。
◆行き先表示が6種類ある広島・愛宕踏切
広島県広島市は路面電車が市内を広大にカバーしている。原爆ドームや宮島といった名所も路面電車で回れるので、そんな路面電車に揺られ広島を散策するのも楽しいだろう。路面電車そのものが観光コンテンツにもなっている。
しかし、広島駅のすぐ近くにあるJRの愛宕踏切も、観光名所だと力説したい。
この踏切は、行き先表示が6種類もある。通常、踏切が示す行き先は「→」「←」の2種類あれば十分に役目が果たせる。通常の踏切は、上りと下りの二種類しか行き先がないからだ。だが、この踏切には山陽本線・芸備線・呉線・可部線、そして貨物線と回送列車の入出庫と、何種類もの列車が通過する。芸備線だけが「→」と「←」を同じ枠内に収めているので、実質的に7種類の表示があるといえる。
6種類もの表示がある踏切は、全国でもここだけだろう。踏切を待ちながら、「次は山陽本線が来るのか~」「お、次は貨物列車だな」と、楽しむことができる。もちろん、楽しむことを目的にして踏切が設置されているわけではないが、せっかく踏切待ちをするならイライラせずに、楽しく待たされた方がいい。
◆愛媛・松山市 電車が電車待ちする踏切
次に紹介したいのが、愛媛県松山市の伊予鉄道大手町駅のすぐ横にある踏切だ。線路と線路が直角に交差する「ダイヤモンドクロス」と呼ばれる。今では愛知県の名古屋鉄道や高知県土佐電鉄など、その存在は少ない。名古屋鉄道や土佐電鉄と異なり、ここでは、路面電車と一般の鉄道が平面交差しているために電車が電車を待つ踏切として知られている。人が待たされるという踏切の概念を根底から覆す、電車が踏切待ちをする光景が見られる。
伊予鉄道の路面電車には、「坊っちゃん列車」という観光列車が走っている。坊っちゃん列車に乗るのも松山観光の楽しみだが、この平面交差の踏切を通る坊っちゃん列車を眺めるのも楽しいだろう。もっと言えば、坊っちゃん列車が踏切で足止めされている光景を見てほしい。
西日本の踏切ばかり紹介してしまったので、最後は東京の、しかも都心に近くて気が向いたらすぐ見にいける踏切を紹介したい。