「幕が開いてから自分の出番が遅い時は、モニターのマイクからお客さんの反応を聞いています。開幕を待つ客席のざわめきとかも聞こえるんですよ。その声で今日はどんなお客さんが多いのかを判断しています。若い女の子が多いな、お年寄りが多いな、と。そこから始めないと。
お客さんは毎日変わるわけですからね。それに、劇場も変わる。同じ新宿でも紀伊國屋ホールとサザンシアターでは違いますし、地方は地方で全て違う。そうなると、同じ芝居でもやり方は変わります。そういう親切心がないとね。
三谷幸喜さんの芝居を今まで何本もやってきて、一番ウケた芝居は『社長放浪記』でした。わんわんウケたんですけど、どこか違うなと思って五日目くらいを迎えていたんですよね。お客さんはワーッと笑ってくれるんだけど、『もっとウケるはずだ』という声が自分の奥底から聞こえてくるんです。
それで、家へ帰って考えてやっと見つけたことがあって。それは佐藤B作さんのやった役なんですが、次の日の楽屋で『セリフをこう変えてくれる?』と言ってやってもらったらば、お客さんはそのほうを待っていたようにウケるようになって。
ですから、ウケてる中にも『違うぞ』と言ったり、『いいぞ』と言ったり。それを教えてくれるのは、いつもお客さんなんですよね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影:藤岡雅樹
※週刊ポスト2019年5月3・10日号