国内

ゴーン被告変装は「優れたインテリジェンス工作」と佐藤優氏

ゴーン被告の「変装」の背景は(時事通信フォト)

ゴーン被告の「変装」の背景は(時事通信フォト)

 平成最後の大事件である「ゴーン逮捕」──。日産の救世主から一転、犯罪者の烙印が押されようとしている。全容解明が待たれるが、人々の記憶に残っているのは、保釈時の「変装姿」だろう。インテリジェンスの専門家・佐藤優氏が、評論家・片山杜秀氏との対談のなかで、その真意に言及した。

 * * *
片山:ゴーンの保釈に関して、検察はとても神経質になっています。自白しない限り保釈しないという「人質司法」に、海外では批判が集まりました。ここにはどんな思惑があるのでしょうか?

佐藤:数十億円の保釈金を没収されてもゴーンは痛くもかゆくもない。問題は保釈した場合、ゴーンがどう動くかです。たとえば、東京拘置所から出てきたゴーンが釣り船で海に出て、沖合でクルーザーに乗り換える。そして公海に出てしまったら国際法上追いかけられない。そのまま犯罪者を引き渡さないという慣行が国際法でも認められている。ブラジルまで行ってしまったら、もう手出しできません。

 もう一つ保釈できない理由があった。警察と違って特捜部には、ゴーンを保釈したあとに24時間、行動確認をするマンパワーがない。

片山:となると検察には、東京拘置所から出さないように仕向けるしかなかったわけですね。結局、ゴーンは保釈されましたが、最初(3月6日)の保釈時の作業着姿への「変装」はどう見ればよいのでしょう。

佐藤:ゴーンが変装しないでも済むような態勢を東京拘置所は整えることができたはずです。東京拘置所の地下に駐車場があるので、そこからゴーンをワゴン車の後部座席に乗せ、周囲を分厚い遮光カーテンで遮断すれば、強いフラッシュをたいても写真に映ることはありません。

 法務省、すなわち東京地検特捜部の意向を反映して、東京拘置所が、容易にゴーンの姿を撮影できるような場所を出口に指定したので、弁護側としても変装という手段をとらざるを得なかったのだと思います。

 ちなみに私が2003年10月8日に保釈になったときは、拘置所職員が「カメラマンが控えているので、裏口から出ましょう」と言って、通用門から外に出してくれました。従って、車に乗り込むときの様子は撮られませんでした。今回、拘置所は私に対して行ったような配慮をゴーンにはしなかったのでしょう。

 勾留直後は、精神的にも体力的にも消耗しています。さらに写真や動画を撮られると、手を動かす、視線を合わせる、そらせるなどの些細な動作について悪意を伴った解釈とともに報じられます。

 写真や動画を撮られないことが、被告人の利益に適います。だから、弁護団は変装を思いついたのでしょう。弁護士の仕事は、依頼人の利益を極大化することです。

 この点で、ゴーン弁護団は、変装というマヌーバー(陽動)作戦によって、ゴーンの名誉と尊厳を守り抜くという実に優れたインテリジェンス工作を行ったと思います。

片山:しかし、これでブラジルまで逃げられてしまったら、司法の歴史に残る大失態ですね。

*佐藤優・片山杜秀著『平成史』(文庫版)より一部抜粋。同書の刊行記念イベント「令和時代を生き抜くために」が6月24日に紀伊國屋ホールにて行われる。詳細はhttps://www.kinokuniya.co.jp/c/label/20190424103000.html

関連記事

トピックス

第1子を出産した真美子さんと大谷(/時事通信フォト)
《母と2人で異国の子育て》真美子さんを支える「幼少期から大好きだったディズニーソング」…セーラームーン並みにテンションがアガる好きな曲「大谷に“布教”したんじゃ?」
NEWSポストセブン
俳優・北村総一朗さん
《今年90歳の『踊る大捜査線』湾岸署署長》俳優・北村総一朗が語った22歳年下夫人への感謝「人生最大の不幸が戦争体験なら、人生最大の幸せは妻と出会ったこと」
NEWSポストセブン
コムズ被告主催のパーティーにはジャスティン・ビーバーも参加していた(Getty Images)
《米セレブの性パーティー“フリーク・オフ”に新展開》“シャスティン・ビーバー被害者説”を関係者が否定、〈まるで40代〉に激変も口を閉ざしていたワケ【ディディ事件】
NEWSポストセブン
漫才賞レース『THE SECOND』で躍動(c)フジテレビ
「お、お、おさむちゃんでーす!」漫才ブームから40年超で再爆発「ザ・ぼんち」の凄さ ノンスタ石田「名前を言っただけで笑いを取れる芸人なんて他にどれだけいます?」
週刊ポスト
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
「よだれを垂らして普通の状態ではなかった」レーサム創業者“薬物漬け性パーティー”が露呈した「緊迫の瞬間」〈田中剛容疑者、奥本美穂容疑者、小西木菜容疑者が逮捕〉
NEWSポストセブン
1泊2日の日程で石川県七尾市と志賀町をご訪問(2025年5月19日、撮影/JMPA)
《1泊2日で石川県へ》愛子さま、被災地ご訪問はパンツルック 「ホワイト」と「ブラック」の使い分けで見せた2つの大人コーデ
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で「虫が大量発生」という新たなトラブルが勃発(写真/読者提供)
《万博で「虫」大量発生…正体は》「キャー!」関西万博に響いた若い女性の悲鳴、専門家が解説する「一度羽化したユスリカの早期駆除は現実的でない」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《美女をあてがうスカウトの“恐ろしい手練手管”》有名国立大学に通う小西木菜容疑者(21)が“薬物漬けパーティー”に堕ちるまで〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者と逮捕〉
NEWSポストセブン
江夏豊氏が認める歴代阪神の名投手は誰か
江夏豊氏が選出する「歴代阪神の名投手10人」 レジェンドから個性派まで…甲子園のヤジに潰されなかった“なにくそという気概”を持った男たち
週刊ポスト
キャンパスライフを楽しむ悠仁さま(時事通信フォト)
悠仁さま、筑波大学で“バドミントンサークルに加入”情報、100人以上所属の大規模なサークルか 「皇室といえばテニス」のイメージが強いなか「異なる競技を自ら選ばれたそうです」と宮内庁担当記者
週刊ポスト
前田健太と早穂夫人(共同通信社)
《私は帰国することになりました》前田健太投手が米国残留を決断…別居中の元女子アナ妻がインスタで明かしていた「夫婦関係」
NEWSポストセブン
子役としても活躍する長男・崇徳くんとの2ショット(事務所提供)
《山田まりやが明かした別居の真相》「紙切れの契約に縛られず、もっと自由でいられるようになるべき」40代で決断した“円満別居”、始めた「シングルマザー支援事業」
NEWSポストセブン