国内

井上ひさしさん、家族が語る死の直前の闘病と「仕事の鬼」

2010年4月に亡くなった井上ひさしさん

 近年亡くなった著名人に、死のサインはあったのだろうか…? 残念ながら、危険なサインが出ていても、なかなか気づかないケースもある。直木賞作家の井上ひさしさん(享年75)は2009年、戯曲『組曲虐殺』を執筆中に激しくせき込むようになった。

「一度せき込むとしゃべれなくなるほどひどいせきでした。しかし、父は作家としてふだんから無理を重ねていたので、徹夜続きで弱っているんだろうと思い、執筆が終わればよくなると信じていたんです」

 そう語るのは井上さんの三女で、井上さんが旗揚げした劇団「こまつ座」社長の麻矢さんだ。

 やがて井上さんの状態は自宅前の坂道を上れないほど悪化し、受診するとステージ3の肺腺がんと診断された。進行度合いの深刻さから、すでに手術はできず、抗がん剤治療がスタートする。

「抗がん剤治療は4回1セットですが、あまりのつらさに途中で断念する人も多いそうです。医師も、4回目まで進んだ人は珍しいと驚いていました。父は本当にがまん強かったです」(麻矢さん)

 病床の井上さんは最期まで仕事の鬼だった。麻矢さんに毎晩のように電話をかけてきて、自らの経験をもとに人生の神髄を厳しく伝授した。

「父は『見舞いに来るくらいなら劇場や営業先に顔を出しなさい』と言う人だったので、病院では顔を見る程度ですぐに帰っていました。一度だけ、弱気になった私が会社の方針について相談すると、『全部任せたのだから、社長のきみが決めなさい』と言われました」(麻矢さん)

 2010年4月、井上さんは自宅で永眠した。5月には、生前の井上さんが構想を練り、麻矢さんが初プロデュースを務める新公演が始まる。平成を代表する大作家の遺志と作品は、新しい時代を生きる娘に託された。

※女性セブン2019年5月9・16日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン