◆夫はなぜ妻の昇進に嫉妬するのか
一般に嫉妬は仲間の中から、誰かが突出したときよりも、下から自分の地位に接近したり、並んできたりしたときのほうが強くなるようだ。誰かが突出したときは、もはや仲間ではなくなるので残された自分たちには直接影響がない。あまり良くないことだが、仲良しグループに入れないというケースもある。
ところが自分の地位に接近してきたり、並んできたりしたときは、そうはいかない。それまでのように相手に対して優越感を味わったり、上から目線で接したりできなくなるし、周囲から見た自分の存在感も薄れてしまう。
しかもやっかいなことに、本来は助け合い、喜び合う立場の人から妬まれやすい。関係が近いほど、そして長く続くほど嫉妬は強くなるからだ。
特に夫婦は人間的な関係で結ばれており、生涯にわたって一緒に過ごす仲である。夫にとってはこれまで維持してきた家庭内の優越的な地位や、相手からの尊敬を失いたくないわけである。
◆妻の活躍を妨害した大学教授
かつて、こんな話も聞いた。私の知り合いに、学界の重鎮である50代の大学教授がいた。専業主婦の妻は慎ましい人で、内助の功に徹しているふるまいかただった。その妻に対して夫はいつも、「君も社会に出てみなさい」と励ましていたそうだ。子育てが終わったころ、妻は夫に背中を押されながら、はじめて地域のボランティア活動に参加した。
慣れないボランティア活動を懸命にこなす妻に教授はアドバイスを送り、外でもそれとなく自慢していた。労をいとわず誠実な態度で活動する彼女は、次第に周囲の信頼を集め、やがてリーダー的な存在になっていった。その活動が評価され、審議会の委員にも選ばれるなど、地域では夫と肩を並べるほどの存在になった。
すると、夫の妻に対する接し方が変化した。「ずいぶんエラくなったな」とか、「女性は人材難だから……」などと嫌みを口にしたり、家庭内では事あるごとに怒り出したりする。そしてついに、「家事に支障がでるから」という理由で妻を委員にすえないよう、関係者に働きかけるような愚行まで犯してしまったのである。