「よりよく生きる――それが僕の学びの原点で、自分の言葉で考え抜いた果てに、たとえば『これはプラトンも言ってたことだ』と気づくことができる。反復によって生じるズレや違いが創造と発見の歴史を紡ぐ。いつの時代の人間にも、最も大切なものは等しく与えられているはずなんです」
静謐で紛れのない数学の世界と、混沌として答えの出ない現実の両方を愛する彼は、一見当たり前の今にこそ全てがあると言い切る。そして〈だれもがいまいるその場所で、すでに英雄なのだと気づくことができるような、そういう世界をつくっていきたい〉と、この時代に相応しい新たな知のあり方を模索し続けるのだ。
【プロフィール】もりた・まさお/1985年東京都生まれ。東京大学理学部数学科卒。在学中に現スマートニュースCEO、鈴木健氏と出会い、ITベンチャーに参加。現在は在野の研究者として「数学ブックトーク」等、国内外でライブを展開。「僕は今の仕事を生計の術とは考えていないんです。自分が表現することを望む人がいる限り食べてはいける。先々のぶんまでたくさんお金を稼がなくては、というふうに“念のため生きておく”必要はないのかなって(笑い)」。2016年『数学する身体』で小林秀雄賞。編著に岡潔『数学する人生』。京都在住。180cm、72kg。
構成■橋本紀子 撮影■三島正
※週刊ポスト2019年5月31日号