とてもロマンチックなお話だ。絵本という形でなければ、オジサンには照れくさいほどの物語だが、絵のすばらしさも手伝って、素直に感動してしまった。
ぼくは絵本が大好きだ。医師として多忙な日々を送っていたころ、子育てにあまりかかわれなかった。その罪滅ぼしに、年に一冊、子どもにプレゼントしてきた。今は孫のために絵本を選んでいる。
そして、ときどき自分の人生を重ねることができる作品に出合う。今回は、そんな大人も楽しめる絵本を何冊かを紹介しよう。
『百年の家』(絵・ロベルト・インノチェンティ 作・J・パトリック・ルイス 訳・長田弘 講談社)は、一軒の古い家を定点観測し、移り変わっていく長い年月を、フィルムの早回しのように見せてくれる。
物語は1900年、森の中の廃屋を人が見つけて住み着くところから始まる。森は開かれ、ブドウの木が植えられる。新しい家族が誕生し、子どもたちは成長し巣立っていく。やがて戦争が起こるが、人々はその災禍を乗り越えて生きていく。庭に停められたロバの荷車は、自動車に変わり、老いた主人の葬送のために人が集まる。そして、古い家はまただれも住まない廃屋になる。
ぼくは1987年、初めて家を建てた。カナダの有名なログビルダー、マイルス・ポーターが作った丸太小屋を、コンテナで運んでもらったものだ。直径40センチの丸太は、樹齢250年。「丁寧に使えば、樹齢と同じ250年はもつ」とポーター氏は言う。
ぼくは、その家を「岩次郎小屋」と名付けた。岩次郎は、ぼくを拾って育ててくれた命の恩人。ぼくたちの家族のつながりは岩次郎さんから始まっている。250年後の岩次郎小屋には、だれがどんなふうに住んでいるのだろうか。