『でも、わたし生きていくわ』(作・コレット・ニース=マズール 絵・エステル・メーンス 訳・柳田邦男 文溪堂)は、絶望を希望に変えていく絵本。突然、両親を亡くした幼い女の子が、まわりの人たちの思いやりと愛情に触れながら、新しい家で生きていく。「悲しみは消えないけれど、いま、わたしは、しあわせ」と言う女の子の言葉に、人間が本来もっている「生きる力」を感じる。70歳を過ぎて、だんだんにいろんな自由がきかなくなっていくぼくだが、それでも、生きていくぞと勇気を奮い立たせてくれる。
社会的な問題を題材にしているのは『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』(絵・ベン・シャーン 構成・文・アーサー・ビナード 集英社)。1954年、焼津から出港したマグロ漁船第五福竜丸が、マーシャル諸島で操業中、アメリカ軍による水爆実験の死の灰を浴びた。乗組員23人全員が被爆し、1人が半年後に死亡した。
『ここが家だ』というタイトルには、乗組員が住んでいる焼津の家だけでなく、彼らの仕事場であり、生物を育む海、そして、ぼくたちの命を抱えている地球全体を「家」と考えて、家を汚す水爆実験を痛烈に批判しているように思う。第12回日本絵本賞を受賞している。
ぼくも、福島第一原発がメルトダウンし、放射能汚染を起こした事故を『ほうれんそうはないています』(文・鎌田實 絵・長谷川義史 ポプラ社)という絵本にした。福島のホウレン草や乳牛、魚の身になって、食べられることなく廃棄される悲しさを伝えたかった。売れっ子絵本作家の長谷川義史さんの迫力ある絵が実にすばらしい。
ぼくはこれまで何冊か絵本を書いてきたが、昨年初めて紙芝居を書いた。『かまた先生のアリとキリギリス』(脚本・鎌田實 絵・スズキコージ 童心社)だ。イソップの「アリとキリギリス」を鎌田流に書き換え、厳しい冬、アリは蓄えた食糧をキリギリスに分け与え、キリギリスは音楽でアリを楽しませる共生と寛容の物語にした。
それが評価され、第57回五山賞特別賞を受賞することになった。教育紙芝居の生みの親、高橋五山の業績を記念して設けられた賞だ。スズキコージさんの「既成概念を超えた絵画表現」も高く評価された。