音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、桂文珍の毎年恒例「大東京独演会」で実施された“リクエスト方式”についてお届けする。
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毎年恒例の3日連続昼夜興行「桂文珍 大東京独演会」は、2007年7月の第1回は紀伊國屋サザンシアターで開かれたが、2008年7月の第2回から国立劇場小劇場(座席数590)に場所を移し、2012年の第5回以降は4月末の開催が恒例となっている。12回目の今年は27~29日。僕は28日の夜公演に足を運んだ。
「大東京独演会」は「ネタのオートクチュール」と銘打ったリクエスト方式。予め配布された61の候補演目リストから開演前に観客が投票、オープニングトークでリスト外の「本日のお勧め」も発表しつつ、客席とのやり取りで演目を決める。
投票結果は1位が『老婆の休日』、2位は『地獄八景亡者戯』だったが、文珍が選んだのは3位の『憧れの養老院』。他に客席からリクエストされた『風呂敷』(候補リスト内)と『不思議の五圓』(本日のお勧め)を加えた3席に決まった。
1席目は『憧れの養老院』。老夫婦が「老人ホームは高いから刑務所に入って余生を過ごそう」と銀行強盗をする新作落語で、数多い文珍作品の中でも定番と言えるネタだ。
続いては日替わりゲストの三遊亭萬橘が得意の『寄合酒』を演じた。ちなみに27日のゲストは玉川太福(浪曲)、29日は三遊亭兼好。
文珍の2席目『風呂敷』は、浮気性の女房が若い男を意識的に引っ張り込んだという設定で、「知ったかぶりの男が女房に説教をする」くだりがない。男を逃がした後、酔った亭主が「話がうまいな、目の前で起こったみたいだ」と言い、風呂敷に穴が空いていたというのがオチ。これは立川談志が考案したものだ。