スポーツ

NBA入りをつかみ取った八村塁選手の「ピグマリオン効果」

日本人初づくしの八村塁選手(Sipa USA/時事通信フォト)

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々を心理的に分析する。今回は、NBA入りが決まった八村塁選手について。

 * * *
「皆さん、やりました!」と、ハスキーな声で喜びを語ったのは、21日、NBA(米プロバスケットボール協会)のドラフト会議で日本人初の1巡目指名を受けた八村塁選手だ。はにかむような笑顔でインタビューを受けていた彼のジャケットの襟には、日の丸のピンバッジ。名前を呼ばれた瞬間、満面の笑顔で天を指差した八村選手は、その仕草も立ち居振る舞いも堂々としていて実にカッコいい。

 ベナン人を父に、日本人を母に持つ八村選手は、バスケで有名なアメリカのゴンザガ大学で活躍している選手である。その八村選手を1巡目で指名したのはワシントン・ウィーザーズで、ドラフト会議全体でも9位での指名だ。日本バスケ界にとっては歴史的なこの出来事にメディアは大騒ぎだ。

 NBAを見たことがない私としては、これがどれだけすごいことなのかよくわからないのが残念だ。スポーツ全体でいえばバスケの競技人口が一番多いというのだが、日本では野球、サッカー、相撲と比べるとプロスポーツとしてまだ少しなじみが薄い。NBAと聞いてパッと思い浮かぶのはマイケル・ジョーダンぐらいで、ドラフトといえば、プロ野球のドラフト会議ぐらいしかイメージがわかなかったのがホンネだ。だがアメリカでは、NBA選手になるのは、宇宙飛行士になるより難しいらしい。

 そんな中で小柄ながら日本人初のNBAプレーヤーとして活躍してきた田臥勇太選手が、八村選手の1巡目指名を“奇跡”と表したという記事が出ていたぐらいなのだから、バスケを知らない者にとっては想像できないくらいものすごいことなのだろう。年棒もいきなり4億円を超え、待遇もケタ違い。加えてやはり日本人初で、ジョーダンブランドとも契約したのだから、やっぱりすごい。

 その八村選手を支えてきたのが、中学時代の恩師でバスケ部のコーチ・坂本穣治さんの「お前はNBAに行く」という言葉だったという。それだけの素質と才能があったのはもちろん言うまでもないが、コーチからの期待は、彼が成長し活躍していく上で大きな力になっていたはずだ。

 人は期待されると、それに応えようと成果を出す傾向があるといわれる。これを心理学では「ピグマリオン効果」、または「ローゼンタール効果」という。ピグマリオンとは、ギリシャ神話に出てくるキプロス王の名前だ。王は象牙で造った像に恋して思い続けたところ、女神アフロディテがその像に命を与えて、結婚できたという逸話から、ピグマリオン効果と名付けられた。

 期待されれば、一生懸命それに応えようとするのが人間だ。良い期待は良い方向に人を成長させる。だが期待するだけでは、この効果は生まれない。「それを信じてやってきました」と語った八村塁選手の言葉からわかるように、コーチも周りもそうなると強く信じて育てていくこと、そして自分自身が自分の可能性を信じることが大切になる。

 ドラフト直後というタイミングで電話をかけ、「全てはコーチから始まりました」と伝えたという八村選手と、それを聞いて「感無量」と涙ぐんだ坂本コーチ。選手とコーチという二人の信頼関係を土台にしたピグマリオン効果こそが、八村塁をNBA選手へと昇華させたのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
「服のはだけた女性がビクビクと痙攣して…」防犯カメラが捉えた“両手ナイフ男”の逮捕劇と、〈浜松一飲めるガールズバー〉から失われた日常【浜松市ガールズバー店員刺殺】
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《左耳に2つのピアスが》地元メディアが「真美子さん」のディープフェイク映像を公開、大谷は「妻の露出に気を使う」スタンス…関係者は「驚きました」
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(27)と伊藤凛さん(26)は、ものの数分間のうちに刺殺されたとされている(飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
「ギャー!!と悲鳴が…」「血のついた黒い服の切れ端がたくさん…」常連客の山下市郎容疑者が“ククリナイフ”で深夜のバーを襲撃《浜松市ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
和久井学被告と、当時25歳だった元キャバクラ店経営者の女性・Aさん
【新宿タワマン殺人・初公判】「オフ会でBBQ、2人でお台場デートにも…」和久井学被告の弁護人が主張した25歳被害女性の「振る舞い」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
大谷翔平がこだわる回転効率とは何か(時事通信フォト)
《メジャー自己最速164キロ記録》大谷翔平が重視する“回転効率”とは何か? 今永昇太や佐々木朗希とも違う“打ちにくい球”の正体 肩やヒジへの負担を懸念する声も
週刊ポスト
『凡夫 寺島知裕。「BUBKA」を作った男』(清談社Publico)を執筆した作家・樋口毅宏氏
「元部下として本にした。それ自体が罪滅ぼしなんです」…雑誌『BUBKA』を生み出した男の「モラハラ・セクハラ」まみれの“負の爪痕”
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
米田
「元祖二刀流」の米田哲也氏が大谷翔平の打撃を「乗っているよな」と評す 缶チューハイ万引き逮捕後初告白で「巨人に移籍していれば投手本塁打数は歴代1位だった」と語る
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト