漫画村では、雑誌や単行本発売日にすぐデータがアップロードされていた。

漫画村では、雑誌や単行本発売日にすぐデータがアップロードされていた。

 これから、漫画村について刑事での責任追及が始まります。逮捕された都内在住者が所有するPCなどから、もっと多くの証拠や関係者につながる情報が出てくる可能性もあります。ネット上でしか存在が確認できず、ぼんやりとしかつかめなかった漫画村運営グループが、収益をあげるためにどんな組織構成だったのか、どんな人たちが違法行為を重ねていたのかが、はっきりしてくると思います。

 しかし、刑事責任としての著作権法違反は、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金です。広告を中心とした収益が月間6000万円になっていた推計もある漫画村の運営者たちにとっては、たいした罪では無かったと受け取られかねない恐れがあります。だから、彼らには刑事だけでなく、民事での責任も求めていくのが適当ではないでしょうか。

 たとえば、漫画村によって被害を被った漫画家の先生方は、おそらく全国津々浦々にお住まいだと思います。被害者である漫画家の先生が、全国各地の裁判所で漫画村運営者に対する裁判を起こしたら、彼らは自分たちが犯した罪の大きさを自覚するのではないでしょうか。裁判に欠席したら敗訴が確定してしまいますから、被告となった彼らは全国の裁判所を巡らなければなりませんし、刑務所に収監されていた場合、より対応に苦慮すると思います。大変な苦労の末に生み出される漫画を、何の断りもなくコピーして自分たちの利益に換えていた罪と、しっかり向き合うことになるかもしれません。もし、その機運が盛り上がるのであれば、漫画家の先生がご自身で使える訴状のひな形を用意して無償で提供するつもりです。

 漫画村の問題は具体的に責任追及をする道筋が見えてきましたが、類似した海賊版サイトはいまも数多く存在します。漫画村を摘発して運営者を逮捕するだけでは、海賊版問題そのものの解決にはつながりません。海賊版サイト全体を解決する糸口としては、著作権を無視するような悪質サイトに収益を上げさせないことが、もっとも効果的でしょう。

 たとえば、ロンドン市警察では「インフリンジング・ウェブサイト(the Infringing Website List、侵害サイトリスト、略称:IWL)」を公開しています。著作権で保護されたコンテンツへの権利侵害がみとめられるサイトを、警察と広告業界が協力してリストにしているのです。オペレーション・クリエイティブと名付けられたこの作戦では、もし違反が認められれば、そのサイトは改善するように通知されます。もし改善されない場合には、ドメイン登録機関を通じてサイトの一時停止、広告停止と収入中断の措置が要求されます。現在の日本のウェブ広告の仕組みでは、広告主にとって不本意なことに、違法サイトに広告として表示されてしまうことがありますが、このIWLを活用すれば、望まない広告出稿が防げます。

 もし日本でも同様のリスト作成が実現して、違法サイトへの広告出稿が取りやめになれば、状況はかなり改善されるはずです。彼らは何も生み出さなくても儲けられる方法として海賊版サイトを選んでいるだけです。もしそれが、たいして儲からないものとなったら、運営を諦める可能性が高いと思われます。

 海賊版サイトの収入を断つことだけでなく、素性を隠したい彼らの企みがうまくいかなくなるような法整備も必要です。そのためにはプロバイダ責任制限法の改正の議論なども必要と考えます。

 現在、プロバイダ責任制限法にのっとった発信者情報開示で対象になるのは、氏名、住所、メールアドレス、IPアドレスなどです。ところがここに、電話番号は含まれていません。現在のネットサービスへの登録は、残念ながら、氏名をはじめ様々な項目を架空のものにして身元を隠すことができます。ところが、多くのサービスで導入されている二段階認証ではSMSを受け取るため、電話番号だけは本物が必要です。最近は、動画共有サイトなどのSNSで海賊版漫画の配信をする例が増えています。それらの発信者を突き止めるためにも、この法改正は喫緊の課題です。また、昨年の法務員会においてこの問題を取り上げて下さった国会議員の方もおりますので、今後議論が深まることを期待しております。

 漫画は、漫画家の先生方の大変な努力と苦労の末に生み出されるものです。実は数年前に、自分で漫画原作をやってみたくて、企画を持ち込んで40ページほどの漫画の作成に加わったことがあります。1本を創作するだけでもヘトヘトになり、毎月、毎週と繰り返すのは難しいなと思うと当時に、プロの漫画家の先生は本当に大変な苦労を重ねて凄いものを作ってくれているのだなと思わされました。この体験からも、将来にわたって面白い漫画を生み出してもらうためには、漫画家の先生方が安心して創作を続けられる、著作権がきちんと守られるネット環境を整えてゆくべきだと思います。

●なかじまひろゆき/弁護士(第二東京弁護士会所属)。2010年神戸大学大学院法学研究科法科大学院修了、衆議院議員秘書を経て2011年弁護士登録。国会議員政策担当秘書の資格所持。サイバー犯罪に関しては警察に捜査協力も行う。ITと知的財産分野を中心に活動する他、電力会社や医療法人の顧問、有名ファッションブランドのプロデューサーを務めるなど多岐にわたって活躍する。

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