音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、女性落語家の柳亭こみちが、「死神はみんな婆さん」にして古典を自分に引き寄せて傑作へと導いたこみち版『死神』についてお届けする。
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長い歴史の中で男性演者が磨き上げてきた古典落語をどのように演じるべきか。女性落語家にとって、これは永遠の課題だろう。
もちろん「女性ならではの新作落語」は大きな武器になる。だが多くの場合、彼女たちは「もともと古典が演りたくて入門した」と言う。では、その古典をどうやって「自分の武器」にしていくか。
ひとつには、登場する女性にスポットを当てるという手法がある。4月に春風亭ぴっかり☆との二人会で林家つる子が演じた『子別れ(下)』(『子は鎹』)では、熊五郎に追い出された後の母子の日常生活を冒頭で描いてから、その子が父の熊五郎に再会するという独自の演り方をしていた。この発想は見事だ。
古典を真っ当に演って充分に上手い柳亭こみちも、最近は「古典をいかに自分に引き寄せるか」というテーマに積極的に取り組んでいる。5月29日の独演会「なかの坐こみち堂」(なかの芸能小劇場)での『死神』も、そんな一席だった。
金の工面ができず女房に愛想を尽かされて死のうとする男の前に現われた死神。これがなんと爺さんではなく婆さんなのだが、こみち演じる死神婆さんのクシャクシャな顔がなんとも可笑しく、トボケた口調と相まって強烈なインパクトがある。