◆『君の名は。』以降の数年間で、天気は“脅威”に変わった
荒木:極端な気象が増えてきたともいえますね。
新海:そうです。いわゆる「気候変動」です。天気予報でも「今年は夏がとても暑くなるから、命を守る行動をとりましょう」「経験したことのないものすごい雨が降ります」「とても強い寒波がきます」と警告することが増えました。
「えーっ、天気って、そんなに人間と敵対するものなの!?」という気分がここ数年で高まった気がします。ぼくだけじゃなく、周りの人も同じように感じているはずなので、今回の作品では天気をテーマにしてみたいと思いました。
──天気の変化はデータ上でも明らかだ。昨年1年間だけでも、夏は記録的な猛暑となり、7月に埼玉県熊谷市で国内観測史上最高の41.1℃を記録。台風も続々とやって来て、なかには東から西に進む珍しい台風もあった。梅雨前線が停滞し続けたことで、7月には西日本を中心にもたらされた豪雨による死者は200人を超えた。
日本だけではない。世界気象機関(WMO)は7月12日、ロシア・シベリアなどの北極圏で記録的高温となって山火事が多発し、アメリカやバングラデシュでは洪水が発生、欧州やインドなども熱波に襲われるなど、今年6月以降、世界各地で異常気象が相次いでいると警告を発したばかりだ。
荒木:ここ40年くらいの観測データを見ると、1時間で80mmの猛烈な雨の発生回数は有意に増えています。新海さんが感覚的にとらえている天気の変化は実際に起こっていると考えていいかもしれない。
新海:ただ世の中には、気候変動そのものを認めない人もいますよね。地球温暖化対策への協力を渋ったりする政治家などが典型的ですが、社会的、政治的な立場によって「天気の変化と人間の活動は関係ない」と主張する人が少なくない。そうした見解は、研究者の目からはどのように見えるのですか?
荒木:気象学は科学なので、個々人の思い込みを議論するのではなく、研究の積み重ねから客観的な事実を見出します。その観点からいうと、地球温暖化の影響で気候変動が起き、異常気象が発生するということは実際に起こっている。そのうえで、気温上昇や海水温上昇などそれぞれの条件が、大雨や猛暑などの現象にどのような影響を及ぼすのかについての研究が進んでいます。
──実は本作で荒木さんは気象の監修をしただけでなく、本人役で声の出演を果たした。
新海:今回の映画を作ろうと思ってから、きちんと天気を勉強しようと、荒木さんが書かれた『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)を読んだんです。それがすごく面白くて、こちらからお願いして、作中での天気にかかわる現象や雲の形まで細かくアドバイスしてもらいました。