これらのマスクについて、以前からネット上では科学者や医師などから以下のような疑問が投げかけられていた。
(1)酸化チタン(光触媒)という素材に花粉やウイルスを分解する力があるとしても、実際の製品にその効果があるのか。
(2)花粉やウイルスの組成には、炭素(C)や水素(H)だけでなく、硫黄(S)や窒素(N)なども含まれるので、花粉やウイルスが分解されるとしたら、水や二酸化炭素だけではなく、硫黄酸化物や窒素酸化物なども生成するから、「花粉やウイルスを水に変える」という表記は誤解を招くのではないか。そもそも実際の製品で本当に水や二酸化炭素になるまで化学反応が進むのか。
(3)酸化チタン(光触媒)による化学反応のスピードは、花粉やウイルスを瞬時に分解するほど速くはなく、仮に分解するとしてもマスクのフィルターが吸着した花粉やウイルスをゆっくり分解することになるはず。しかし、吸着した時点でマスクは役目を果たしているわけで、分解する意味があるのか。
◆消費者庁が「問題視」した点
こうした疑問はあくまでネット上での議論で挙げられたものだが、では、消費者庁として問題視しているのは何か。
措置命令の文書にはこうある。(ここでいう本件3商品とは、大正製薬の『パブロンマスク365ふつうサイズ』『(同)やや小さめサイズ』『(同)子供用』の3つである。)
〈あたかも、本件3商品を装着すれば、太陽光及び室内光下において、本件3商品に含まれる光触媒の効果によって、本件3商品表面に付着した花粉由来のアレルギーの原因となる物質、細菌、ウイルス及び悪臭の原因となる物質を化学的に分解することにより、これらが体内に吸入されることを防ぐ効果が得られるかのように示す表示をしている〉
少々漠然としていて、「分解できないのに『分解する』と表記している」と問題視しているのか、それとも「分解はするが、吸入を防ぐ効果はない」と主張しているのか、あるいは「分解もしないし、吸入を防ぐ効果もない」というのか、よくわからない。
消費者庁に問い合わせたところ、「措置命令に書いてある通りで、個別の事案についてそれ以上のことはお答えできない」(表示対策課)という。ただ、一般論として、「そうした効果を表示する以上、科学的な根拠をお示しくださいとお願いし、根拠が示されたのですが、科学的に裏付ける内容ではないと判断し、改善の措置命令を出したということです。我々はメーカー側から提出された書類を審査するだけで、実物を使った試験はしていません」(同)との答えだった。
◆大正製薬の反論
大正製薬にも、消費者庁の命令に対する同社の見解を訊いた。同社取締役常務執行役員の高橋伊津美氏はこう語る。
「昨年12月に消費者庁から呼び出され、表示の根拠の提出を求められました。弊社では第三者機関に依頼して、花粉、ウイルス、ブドウ球菌について6つのテストを実施して効果を確認していますので、それら資料を提出し、3か月にわたって反証を続けてきましたが、突然、7月4日になって処分が発表されたので、非常に驚いています」