消費者庁側が回答しないので、ここは推測になるが、これまでネット上で批判の対象にされてきたのは、主にDR.C医薬の『花粉を水に変えるマスク』だった。同社は歌舞伎役者の市川海老蔵氏をCMに起用し、一時期、大がかりなプロモーションを実施していたので、世間ではこの「水に変えるマスク」の印象が強い。CMでは花粉やウイルスが瞬時に分解されるようなCGが使われていた。
大正製薬の『パブロンマスク365』のパッケージはもちろん静止画なのだが、花粉やウイルスがマスクで分解されるイラストが使われていて、DR.C医薬のCMのイメージに引きずられて、瞬時に分解されるかのような錯覚を起こしてしまう人もいるかもしれない。
実際はマスクで吸着した花粉やウイルスを1~数時間かけて分解するわけで、最初の疑問点に戻るが、吸着すればマスクの目的は果たされ、時間をかけてまで分解する必要はないのではないか。
「マスクでウイルスを捕らえただけでは、そのマスクをはずすときなど手に付着する可能性があります。食事などでいったんはずしてまた装着するというときも、裏表逆に装着したりすると捕集した花粉を吸い込んでしまったりします。分解して不活性化する意味はあると考えます」(前出・高橋健三氏)
こうした目的で、花粉やウイルスを分解する機能を持たせているという。それなら、「ウイルスが手につくのを防ぐ」「裏表逆に装着して花粉を吸引してしまうのを防ぐ」といった分解する目的がわかるような説明をパッケージに表記した方がよかったかもしれない。もっとも、景表法違反を回避するには“よけいなことは書かないこと”が大事で判断の難しいところではある。
大正製薬側の主張が実際にその通りであるならば、他社の「水(と二酸化炭素)に変える」マスクと同一視された“もらい事故”による処分ということになるが、いずれにせよ大正製薬としては「この商品の販売は継続しますし、消費者庁が処分を取り下げない限り、法的措置を取ることになります」(前出・高橋健三氏)と宣言している。
これまでもメーカー側が措置命令を不服として法的措置を取るケースは実際にあり、消費者庁側が取り下げることもある。消費者庁が何を問題視し、見解の相違がどこにあるのかは法廷で明らかになるはずだ。経緯を見守りたい。
●取材・文/清水典之(フリーライター)