カルロス・ゴーン被告は日産の業績不振をどう見ているのか
ゴーン被告は2017年4月、“ゴーンチルドレン”と呼ばれる西川氏を社長に選んだが、西川氏に関しては、ゴーン前会長の不正を見逃してきた責任を問う声が根強い。6月25日の株主総会では、取締役としての再任の賛成率は78%にとどまり、候補者11人中最低だった。
社長に就任してからの業績は右肩下がり。今回、赤字寸前にまで落ち込んだため、西川氏の経営責任を問う声が一段と高まっている。
すでに、社内の指名委員会で西川氏の後継者選びが始まった。指名委員会は経済産業省出身の豊田正和氏が委員長。委員はレーサーの井原慶子氏、ソニー・インタラクティブエンタテイメント元会長のアンドリュー・ハウス氏、取締役会議長のJXTGホールデイングス相談役の木村康氏、元みずほ信託銀行副社長の永井素夫氏、取締役会副議長のルノー取締役会長のジャンドミニク・スナール氏で構成されている。
総会後の取締役会で決定した企業統治の指針によると、指名委は適切な後継者計画を策定し「少なくとも1年に1回見直しを行う」と規定された。
業績悪化を受けて西川社長の交代は避けられない。指名委は誰を“ポスト・西川”とするのか。ルノーのスナール会長としては、統合賛成派をトップに据えたいだろう。日産とルノーの統合を巡る主戦場は指名委に移った。
◆日産株は長期低迷へ
2020年3月期の通期業績予想は下方修正せず、西川氏は「十分に挽回可能だ」と言い切った。通期の営業利益は2019年3月期比28%減の2300億円、純利益は47%減の1700億円を見込んでいるが、4~6月期に16億円だった営業利益が残る9か月で2300億円になるのか。最終利益は4~6月期に63億円。これを1700億円にするには壮大なマジックが必要だ。ゴーン被告は盛んにマジックを繰り出したが西川社長はマジシャンではない。
そもそも論になるが、安売りイメージの刷新は一朝一夕にはできない。「業績回復が容易ではないことは覚悟している」(日産関係者)というのが本音だろう。2019年9月中間決算の発表段階で通期見通しを下方修正することになるのではないのか。
業績の急降下に伴い、株式市場は日産の配当政策に着目している。2019年3月期は1株当たり年間57円の配当を実施したが、「ルノーの利益を確保するためだけの高い配当」(日産関係者)。誤解を恐れずにいえば、日産の配当金は「ゴーンからのルノーへのギフト」と化していた。
2020年3月期は年40円の配当をするとしていたが、水面上スレスレの利益でこの配当を維持できるのだろうか、疑問視する声が出ている。アライアンスを組む三菱自動車並みだと年20円。常に減配懸念がつきまとい、株価の反転は望み薄だ。
株価は7月26日に741円まで下げ、6月3日の年初来安値(722円)に3%足らずに接近。これを割り込めば、2012年11月(アベノミクス相場が始まった月)以来の安値水準に突入する。
すでに世界8拠点で6400人超の人員削減を進めており、国内でも期間工の採用の抑制から痛みを伴うリストラが進行する。おそらく従業員の給料も上がらないだろう。西川社長の2019年3月期の役員報酬は2018年同期比19%減の4億400万円だったが、その後の業績悪化を考えれば、この高額報酬は“砂上の楼閣”だった。
日産の経営陣はすでにレームダック化しており、西川体制も短期政権になる公算が大きい。だが、ゴーン前会長の超高額報酬のおこぼれで軒並みかさ上げされた日産の経営陣の報酬に大ナタが振るわれなければ、リストラされる社員の気持はおさまらない。「西川(社長)は高額報酬を返上しろ」などという声が起こってもおかしくない厳しい情況に立ちいたった。