「ただしテルの能力は10日先の天気が読める程度、鈴虫は虫だけ、香瑠は石だけの声が分かる。かつて為政者に重用された〈鳥読〉や〈獣読〉ほど、戦闘力は強くないんです。彼らがドラえもんみたいに何でも望みを叶え、ましてその力を正義のために使うなんてイヤだった。
人間が自力で何かに気付くための補佐役に過ぎない彼らは、人ならぬものとも心通わせ、声が聴ける程度で十分。私自身、動物や植物や自然の存在に助けられることは多いし、人間以外の種がいない世界なんてゾッとするけれど、本書を『自然だけが尊い』みたいな胡散臭い小説にも、したくなかったんです」
◆見せたくない現実に蓋をしてきた
この時代、国による自然破壊や格差助長を糾弾する地下組織〈ヌートリア〉が、鳥を操る鳥読こと〈羽音〉と組んで国側の監視装置〈ドロカイ〉と空中戦を繰り広げるなど、一触即発の気配が。そんな中、〈この世界に安全な空はない〉と言って家にこもる早久がテルたちと土に触れることで少し自信をつけ、〈理想のジャポい児童像〉を強要する校長に鈴虫たちと一泡吹かせるなど、彼らの一歩ずつの成長譚は何とも可笑しく、好ましい。
が、油断大敵だ。例えば早久の級友〈次郎〉が住む通称・別区では〈観光革命の落伍者〉が細々と暮らし、景勝特区で働く外国人労働者〈外ロー〉や定職にあぶれた〈日ロー〉を強制収容する〈UD〉の環境はさらに劣悪だった。
由阿は観光立国の真の担い手を地下に隔離し、食堂でも〈醤油味〉の和食しか出さないUDの闇を暴くべく潜入を試みる。里宇たちも社会研究〈『UDの闇は醤油色』〉を書くため同行。折しも極秘視察中だった米大統領〈ジョニー・カベロ〉と知り合うが、庶民派の彼には、意外な野望が──。