「内実は相当酷いとも聞く外国人技能実習制度にしても、実際、日本では見せたくない現実に蓋をしてきた。人々が監視し合い、断層を探し合う閉鎖的で差別的な空気が法律にすらなるこの世界は、全くの絵空事とも言えないと思うんです。
本書にはUDの内側から改革を叫ぶ〈殿〉やヌートリアといった反体制派も登場しますが、私には世の中が悪くなった時にその流れを止める力もなければ、救世主の登場に縋ることもない。むしろ自分や周りの人間がそれでも楽しく生きる方法は絶対あると思っていて、自分は自分にできる範囲を照らすことが、唯一の拠り所という気がするんです」
人間を信じ、人ならぬものとも通じ合う風穴の自由な在り方は、近代的な自然支配とも今風の共生の美学とも明らかに違う。そしてこっちの方が断然面白くて豊かで幸せな、本来のジャポいにも思えてくるのだ。
【プロフィール】もり・えと/1968年東京生まれ。早大卒。1990年の講談社児童文学新人賞受賞作「リズム」以来、『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞、『アーモンド入りチョコレートのワルツ』で路傍の石文学賞、『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞等、児童文学で活躍。2006年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、2017年『みかづき』で中央公論文芸賞を受賞し、幅広い読者を獲得。他に『永遠の出口』『漁師の愛人』等。ちなみに醤油は苦手で「納豆は断然マヨ派です!」。153.3cm、O型。
構成/橋本紀子 撮影/三島正
※週刊ポスト2019年8月9日号