佐貫町駅の駅舎は大正4(1915)年、那古船形駅の駅舎は大正7(1918)年に建てられたもので、いずれも屋根の形を見る限りは内房型駅舎ではないものの、ホーム側のデザインは内房型と同じく右側の事務室部分が出っ張った造りになっている。那古船形駅の待合室内は格子天井がそのまま残っているのも見物だ。
那古船形駅の待合室(筆者撮影)
大正11(1922)年開業の江見駅、大正13(1924)年開業の太海駅の駅舎は三角屋根の端正な車寄せが特徴で、兄弟駅と言ってもいいほどデザインがよく似ている。江見駅は外壁が補修されているものの入口の引き戸が木製のまま残っており、太海駅は引き戸が失われているものの押縁下見板張り(おしぶちしたみいたばり)の外壁が状態よく残っている。
◆房総半島内陸のローカル駅舎──久留里線
木更津と上総亀山を結ぶローカル線で、横田、馬来田、久留里、上総亀山に木造駅舎が残っている。
大正元年(1912)に建てられた横田駅の駅舎は曲屋風で、かつての外壁は押縁下見板張りだったようだが、現在では新建材で補修されている。馬来田駅の駅舎も同時に建てられたもので、板張りの外壁が残っているのが味わい深い。古き良きローカル線の駅の姿を色濃く残しているが、正面部分にタクシー会社の事務室が増設されている。
同じく大正元年開業の久留里駅の駅舎は馬来田の駅舎を一回り大きくしたようなデザインだが、かなり補修されている。昭和11(1936)年に開業した終点の上総亀山駅の駅舎はシンプルなデザインで、かつては入口庇の上部の壁に四角い時計が掲げられていたが、改修の際に撤去されてしまったようだ。
以上見たように、千葉県のJR線には今なお多くの木造駅舎が残っている。今回は紹介することができなかったが、小湊鉄道や銚子電鉄にも木造駅舎が健在であり、千葉県はまさに「木造駅舎の宝庫」と言えるだろう。しかし、木造駅舎はいつまでも残るとは限らない。老朽化などで建て替えられることもあれば、火災や地震で失われることもあるので、見られるうちに見ておくことが何よりも重要だろう。
知らない駅で電車を降りて、駅舎を見る。そんな旅はいかがだろうか。
●取材・文/早稲田大学鉄道研究会降り鉄分科会
●参考文献/杉崎行恭『駅舎再発見 時代の姿をとどめる駅舎を訪ねて』(JTBキャンブックス)、さいきの駅舎訪問http://ekisya.net