国内

若者の将来不安につけ込む「クレカ投資」には要注意だ

投資対象である果物の実物を見た人はいなかった

投資対象である果物の実物を見た人はいなかった

 近ごろ、副業への関心が高まっている。政府が「働き方改革」のひとつとして、企業で働く人の副業・兼業を推進する体制づくりに乗り出したこともあり、副業を認める日本企業も増えてきた。働き過ぎない副業として「投資」に関心が集まっているが、果たしてそれは問題ない副業なのか、判断が難しいものも多い。ライターの森鷹久氏が、近年、目立つ空クレジットの仕組みを利用した利殖ビジネスと、「モノなし」投資の広がりについてレポートする。

 * * *
 岡山県で観光農園などを運営する「西山ファーム」が募っていたとされる、クレジットカードを使った“副業ビジネス”に騙された、と訴えるのは近畿地方在住の自営業・福田翔平さん(仮名・30代)だ。

「完全に騙されましたね、総額で250万円が戻ってきていない」

 インフルエンサービジネスと称して、副業ビジネスを展開していたことでも知られていた「西山ファーム」の名古屋、岡山両市の事務所など関係先が、7月28日に出資法違反(預かり金の禁止)の疑いで、愛知県警によって一斉に家宅捜索された。約束された入金が滞り、クレジットカードの返済に行き詰まる被害も多数出ており、県警では、売買実態のない架空取引の疑いもあるとみて捜査が進められている。

 騒動を取材している全国紙記者が解説する。

「桃やイチゴを栽培し観光農園を運営していた同社の関係者たちが、同社に投資をすれば、農作物の海外転売によって利益を得られると言って出資者を募っていたのが発端です。しかし、多くの出資者に金が返ってきていないというのです。ただ、複数の出資者に話を聞いていくうちに、これはそもそも”空クレジットまがい”ではないかとの噂が立っています」(全国紙記者)

 投資とうたっているが、西山ファームへの投資の方法は、同社への直接入金ではなく、指定の通販サイトを通じて果物やジャムなどの商品を購入するという方法だった。それを直接海外へ転売するからと説明されていたため、顧客は手元に商品が届かないことに疑問を抱いていなかった。しかし、あらかじめ約束されていた入金が次第に滞り、そもそも転売するための商品が存在しないのではないか、“空クレジット”に加担させられたのではないかという疑念が浮上した。

 空クレジットとは、商品やサービスを購入した実態がないのに、クレジットカードなどを使って代金のやり取りをする偽装売買のことだ。十数年前から、街中でよく見かけるようになった「カードのショッピング枠の現金化」などといった怪しい看板がまさにそれで、クレカのショッピング枠を利用して、現金を生み出す仕組みだ。実際には買い物をしていないのに、そう見せかけるため、クレジットカード会社を“騙している”とも解釈でき、詐欺罪の可能性を指摘する専門家の声もある。しかし、現金を手にしたい購入者が、実際には商品がないのを承知でクレジットカード決済をしているため、見破りにくい。全国紙記者が続ける。

「出資はクレジットカード決済によって募られていました。例えば、クレカ決済で100万円分の桃などを購入する、これが投資に当たるわけですが、その後商品が海外に転売され利益が上がれば、出資額の100万円はまるまる戻ってくるし、カード決済で発生したポイントが出資者の利益になる、という触れ込みでした」

 このポイント分が「利益」になる「投資」だとして、筆者の取材によれば全国で数百名もの人々が、数万円から五百万以上の出資を行ったのだという。しかし、出資額が戻ってこないことが常態化し、出資者はカードのポイントを発生させるための支払いだけを続けねばならなくなった。

 クレジットカードで支払えばポイントもついてお得、というのはカード加入への誘い文句としてよく使われるが、それは投資の世界でも同じだ。まとまった現金を用意しづらい学生でも、クレジットカードを持っていれば投資できるうえにポイントがたまると、意外なほど若者の間で広まっているビジネスの形だ。実際に、西山ファームの顧客も若者が中心だった。

 冒頭の福田さんが力説する。

「最初は商品が“ある”という前提で投資をしたんです。しかし、自分が買った商品を見た人は、少なくとも私の周囲では誰一人いない。商品は、西山ファーム関係者から紹介された代理店によって管理されており、私たちは出資をするだけ、ということでしたが、約束されていた返金が滞った。そのうちに、これは“空クレジット”ではないのか、そう疑う声が上がり始めました。すると“あなたが買った商品はこれ”など写真が送られてくるようになりましたが、これがどうも信じられない」(福田さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
中国の習近平国家主席(右)と握手を交わす二階俊博氏(2015年5月23日、中国・北京。写真/EPA=時事)
《「媚中政治家」たちの歴史》中国に擦り寄りパンダをエサに利用された政治家たち 二階俊博・元自民党幹事長、森山裕・前幹事長、林芳正・総務相らの“実績”
週刊ポスト
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
亡くなったアンナ・ケプラーさん(TikTokより)
巨大クルーズ船で米・チアリーダー(18)が“謎の死”「首を絞められたような2つのアザ」「FBIが捜査状況を明かさず…」《元恋人が証言した“事件の予兆”》
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト
亡くなったテスタドさん。現場には花が手向けられていた(本人SNSより)
《足立区11人死傷》「2~3年前にSUVでブロック塀に衝突」証言も…容疑者はなぜ免許を持っていた? 弁護士が解説する「『運転できる能力』と『刑事責任能力』は別物」
NEWSポストセブン