平城遷都1300年記念(2010年)に誕生した「せんとくん」(時事通信フォト)
線路の建設時に、大軌(近鉄)は平城宮跡にかからないよう最大限の配慮をした。いまさら「平城宮跡はもっと広かったので、線路を移設してください」と言われても、納得できる話ではない。
そして、鉄道ファンや地元住民からは大和西大寺駅の移転で、”あること”を心配する声が漏れてくる。
大和西大寺駅の平面交差は、複雑かつ美しい線路配置でも知られる。その配線美から鉄道番組だけではなく、旅番組や雑学系のバラエティ番組でも頻繁に紹介される。その配線美を一目見ようと、旅行者が立ち寄ることもある。線路移設で、この平面交差がなくなってしまうのではないか、と心配されているのだ。
平城宮跡は世界遺産だから、「線路を移設」という意見が出るのは理解できる。しかし、大和西大寺駅の平面交差もほかでは見られない、近鉄が誇る世界遺産レベルの鉄道遺産なのだ。
大和西大寺駅の平面交差がなくなるかもしれないという心配に対して、近鉄広報部の担当者は「平面交差がなくなることはありません」と断言する。
しかし、平城宮跡の線路を移設すれば、その余波で大和西大寺駅の配線にも変更が生じる。世界遺産を守ることで、世界遺産級の平面交差が姿を消す可能性もあるのだ。
「平城宮の線路移設に関して、現在は協議の内容・進捗ともに詳細に答えることができません」(奈良県まちづくり推進局地域デザイン課)
平城宮跡の線路移設問題と大和西大寺駅を巡る問題について、関係者たちの口は一様に重い。近鉄・奈良県・奈良市3者の妥協ラインは、いまだ見えない。