舛添要一氏
つまりは、ナチスは下(労働者)からのポピュリズムの風にのった政党なのです。ナチスを熱狂的に支持したのは、既得権益にあずかれない大衆(危機的階層)でした。彼らはエリートを嫌い、むしろ「マージナルマン」(外れ者)が中央に成り上がる様に喝采を送りました。
ここにれいわとナチスのもう一つの共通項があります。党首の山本氏は、芸能界から国会議員になるも、しばらく「無所属のはぐれカラス」でした。突飛な国会質問、天皇に直訴の手紙など、エリート政治家には真似できない手法で注目を集めてきました。永田町の政治家たちは、山本氏のことをバカにしていたことでしょう。参院選に出たれいわの候補者たちも、これまで周縁にいた人たちが多い。
ヒトラーも学歴だけでいえば、小学校しか出ておらず、ましてやドイツ人ですらありません。オーストリア人です。そんなアウトサイダーの彼が成り上がっていく際には、神出鬼没の街頭演説や共産党への攻撃的な選挙妨害など、「やけっぱち」とでも言いたくなるような手法をとりました。
当初は、エリート政治家たちからピエロのように扱われていたこの男が、第一世界大戦後の経済恐慌というドイツの苦境に際して、爆発的に支持を拡大していったのはご存知の通りです。翻って日本でも、いまリーマン級のショックが起これば、何が起こっても不思議ではありません。
もちろん大きな違いはあって、重度障害者の政治家を実現させたれいわの姿勢は、優生思想を押し進めたナチスとは、対局的です。これまで政治に関与できなかった人間を永田町に送り込んだ功績は、高く評価されるべきでしょう。ポピュリズム政党という側面だけで、両者を同一視するつもりはありません。
ただし、一つ注意したいことがあります。れいわの主張は富裕層を除く、多くの国民にとってありがたいものです。ではどうやって実現させるのか。そこに大きな疑問が残ります。また、山本氏の看板政策であり、彼の政治信念であろう「反原発」について最近、ほとんど発言していないのも気になります。
国民受けがよい政策ばかり並べ、党勢を拡大してもいずれメッキは剥がれます。そのとき、被害を被るのは、大多数の国民です。有権者は熱に浮かされず、冷静な視点で新興政党を見つめることが大切です。
*『ヒトラーの正体』刊行イベント「ヒトラーはいつだって甦る ──永田町のバカへの警告」(舛添要一氏×適菜収氏対談)が9月7日に本屋B&Bにて行われます。(詳細→http://bookandbeer.com/event/20190907a/)