ライフ

超高級鮨店の革新的メニュー 大衆店の商品開発に影響も

高級店は試行錯誤を続ける(写真:アフロ)

 高級店が高級店で居続けるためには理由が必要だ。そこで試されるのが革新的なメニュー。評価されれば、業界に与える影響は小さくないようだ。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。

 * * *
 いつの時代もブームは革新者とそこに集まる人々によって演出される。最近では海外からの出店者と新規参入者が続々と出店し、そこに若者が群がるあの飲み物──そう。ふるふると震えるタピオカのブレイクの構図だ。そして、鮨店という日本人にとってなじみ深い食べ物を出す店でも似たような現象が起きている。

 といっても、昔ながらの町場の鮨店の話ではない。新規参入や独立でバブルのような景気に湧いているのは、既存の名店よりも、さらに高価格な新店だ。食事だけで3万円以上、酒を飲んだら5万円近い超高額店。ホンマグロのトロの鮨にキャビアを盛り、北陸の白エビにトリュフを散らす。そうした新店の会計は、当代きっての名人が握る超名店以上ということも珍しくない。それでもカウンターは満席御礼だ。

 いいことだ……と言うと「高いじゃないか!」とお叱りをいただくかもしれない。一食数万円となると、おいそれとのれんをくぐれる単価ではないし、そんな店に通い続けられるのはよほどの富裕層か好事家、それにインバウンドの観光客くらいだろう。だがこうした超高額店でも金額に見合うクオリティがあれば、業界レベルの引き上げや、多様な鮨へとつながる道しるべでもある。

 確かに高い。だが牛丼100杯分にも相当するその一食は、1000万円以上もする超高級車の存在にも似ている。超高級車には大衆車では使うことのできないパーツや機能が採用されている。そこでデータは積み上げられ、大衆車の安全や性能の向上につながる。大衆にとって手が出ない超高級車だったとしても、大衆にとって役に立つフィードバックが得られる。

 食べ物も同じである。超高級店でしかできないような試みが、こなれて模倣を繰り返され、大衆店の鮨に落とし込まれる。現代に至る大衆食の歴史がそうだった。いまから100年ほど前、1923(大正12)年9月1日に関東大震災が起きる前、外食における洋食は政財界のお偉方のためのものだった。そうした一部の人達のためのメニューが、関東大震災以降大衆向けに調整し、後に爆発的な人気を呼ぶに至った。ステーキもシチューもそうだった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン