「あえて波風立てることも」と語る西郷校長(撮影/浅野剛)

「“自分はカッとなると、気持ちが抑えられず、大切な人をも傷つけてしまう傾向がある”と認識したそうです。自分のことを客観的に見られるようになり、気持ちを制御するためにはどうしたらいいのかも考えるようになった。その後、キレる回数は確実に減っていきました」

 自ら摩擦を生み、友人との関係を見直せた生徒もいる。

「とても人気のある、友達の多い女子生徒だったのですが、そういう自分を維持するためには気がのらない時でも誘われたら断れず、悩んでいたんです。みんなにいい顔をしながらも、陰では“これじゃあ、自分のアイデンティティーがなくなってしまう”と校長室に来ては泣いていました」

 ところが2年生になったある日、彼女が突然、黒髪を茶髪に染めてきた。真面目で優等生だったクラスメートの豹変ぶりに、周囲の友達は、驚いて一歩引いたようだった。

「こうして他人との距離が適切に取れたことによって、彼女は自分を取り戻したのだと思います。それまでの友達との上辺だけのベタベタした関係から“独立”したわけです。髪を染めたのはある意味、彼女なりの“独立宣言”だったのでしょう」

 人間関係の“スクラップ&ビルド”は、より強固な関係につながるという。

「波風が立たず、ずっと仲よしでいるよりも、一時的にもめたとしても、本音を言い合ってそれを乗り越えた方が、さらに深い関係が築ける。裏を返せば、けんかや言い合いをせず、ずっと仲よしでいるのは表面だけのつきあいなのかもしれない。いったん破綻した後に関係の修復ができれば、もっと仲よくなれるケースが多いのです。

 本当に好きな人、自分が仲よくしたい人であれば、何としてでも修復したいと思うものだし、けんかで相手の本音を知ったことで、相手をより深く理解できるからです」

 うまく衝突できずに本音をため込んだ結果、一度のけんかで最悪のケースに発展することもある。

 今年7月、埼玉県所沢市で中学2年生の男子生徒が同級生に刃物で刺され亡くなるという事件が起きた。加害少年は「教科書を隠されてけんかになったから」と動機を語ったが、2人は同じクラスで部活動も一緒。周囲からは仲がよいと思われていた。もし、お互いの本音がわかるようなけんかの仕方を知っていれば、事件は起こらなかったかもしれない。

「衝突やけんかを経て成長した生徒は“人間は必ずしも言葉と感情が一致する時ばかりではない”と身を持って理解できるようになっていきます。例えば“バカ”と罵倒してきた同級生が“実はかまってほしいことを素直に伝えられないだけではないか”と言葉の背景にある感情を察せられるようになる。最終的に無駄ないさかいは減っていきます」

※女性セブン2019年9月19日号

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