スポーツ

ラグビー具智元、元韓国代表の父に叱咤され日本代表になるまで

普段は穏やかな具智元が”会心のスクラム”に雄叫びを上げた(写真/アフロ)

 ラグビーワールドカップで快進撃を見せる日本代表チーム。桜のジャージを着た海外出身の選手たちが、日本を背負っている──。彼らはなぜ日本代表を選んだのか。日の丸の勝利のために戦うのか。ノンフィクションライターの山川徹氏が、彼らの想いと足跡を追った。

 * * *
「グーくん」とファンに愛されるのが、韓国出身の具智元(グ・ジオン 25才)だ。

 アイルランド戦では、彼に大きな見せ場があった。日本代表4番のトンプソンルーク(38才)と12番の中村亮土(28才)のダブルタックルが決まり、アイルランドボールのスクラムでゲームが再開された時だった。

 前半35分、スクラムの最前列に立つ3番の具が、相手よりも低い姿勢をとって、間合いをはかる。対するアイルランドのスクラムは世界屈指の強さを誇る。

 具は自身のスクラム観を次のように説明していた。

「海外のスクラムは、個々のパワーにまかせて押してくる。体が小さい日本代表がパワーに対抗するには、スクラムを組む8人が結束するしかない。ひとつの塊になって、スクラムを組む8人全員の意志と力を1点に集中させて、相手のスクラムを分断していく。そんなイメージのスクラムが理想です」

 その時、まさに具の理想のスクラムが実現した。

 レフリーの合図で16人の大男たちが、ぶつかり合う。アイルランドのプレッシャーに対し、日本が耐える。次の瞬間、スクラムがぐらりと揺れた。すぐに日本が押し返して、アイルランドのスクラムを文字通り分断したのである。

 普段は穏やかでおっとりした具が、雄叫びを上げ、渾身のガッツポーズをつくった。勝敗を左右する重要な局面で、自分たちが果たさなければならない役割を強く自覚していたのである。

 具は、スクラムを最前列で支えなければならない「プロップ」というポジションを務める。

 具の体のサイズは、184cm、122kg。太い下がり眉と、目を細めた笑顔に、おおらかで素朴な人柄がにじむ。プロップは、もっとも重量があり、パワーを持つ選手が担う。強いからこそ、優しさを備えた選手が多いポジションといわれる。彼もプロップらしい穏やかな青年だ。

「ぼくはボールを持って独走してトライするよりも、スクラムを押し込んで相手のボールを奪うことに快感を覚えるんですね」

 1994年7月、具は韓国のソウルで生まれた。父は元韓国代表で、アジア最強のプロップと恐れられた具東春。具は、2才年上で、三重県鈴鹿市に拠点を置く「ホンダヒート」のチームメートでもある兄・智充と共に、小学6年生からラグビーを始めた。

 意外にも父は、兄弟にラグビーを勧めたことはなかった。韓国ではラグビーが不人気なうえ、ケガに悩まされた経験があったからだ。

 だが、才能ある兄弟が楕円球を触る姿を見た父のラグビー熱が燃え上がる。

「いい環境でラグビーをやらせてあげたい」と中2の兄と小6の弟をニュージーランドに留学させたのだ。数か月後には、両親もウェリントンに移り住む。日本でのプレー経験を持つ父は、2008年に大分県佐伯市への移住を決断した。

 中学時代、具は父に叱咤され、涙を流しながら大分の山道を走っていた。

「スクラムマシーンになるな!」

 当時の具は、170cm、100kg。しかし走力に難があった。かつてプロップは“スクラムさえ強ければ、フィールドプレーが不得意でも、走力がなくてもいい”と考えられていた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

米倉涼子の“バタバタ”が年を越しそうだ
《米倉涼子の自宅マンションにメディア集結の“真相”》恋人ダンサーの教室には「取材お断り」の張り紙が…捜査関係者は「年が明けてもバタバタ」との見立て
NEWSポストセブン
地雷系メイクの小原容疑者(店舗ホームページより。現在は削除済み)
「家もなく待機所で寝泊まり」「かけ持ちで朝から晩まで…」赤ちゃんの遺体を冷蔵庫に遺棄、“地雷系メイクの嬢”だった小原麗容疑者の素顔
NEWSポストセブン
渡邊渚さん
(撮影/松田忠雄)
「スカートが短いから痴漢してOKなんておかしい」 渡邊渚さんが「加害者が守られがちな痴漢事件」について思うこと
NEWSポストセブン
平沼翔太外野手、森咲智美(時事通信フォト/Instagramより)
《プロ野球選手の夫が突然在阪球団に移籍》沈黙する妻で元グラドル・森咲智美の意外な反応「そんなに急に…」
NEWSポストセブン
死体遺棄・損壊の容疑がかかっている小原麗容疑者(店舗ホームページより。現在は削除済み)
「人形かと思ったら赤ちゃんだった」地雷系メイクの“嬢” 小原麗容疑者が乳児遺体を切断し冷凍庫へ…6か月以上も犯行がバレなかったわけ 《錦糸町・乳児遺棄事件》
NEWSポストセブン
11月27日、映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』を鑑賞した愛子さま(時事通信フォト)
愛子さま「公務で使った年季が入ったバッグ」は雅子さまの“おさがり”か これまでも母娘でアクセサリーや小物を共有
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)は被害者夫の高羽悟さんに思いを寄せていたとみられる(左:共同通信)
【名古屋主婦殺害】被害者の夫は「安福容疑者の親友」に想いを寄せていた…親友が語った胸中「どうしてこんなことになったのって」
NEWSポストセブン
高市早苗・首相はどんな“野望”を抱き、何をやろうとしているのか(時事通信フォト)
《高市首相は2026年に何をやるつもりなのか?》「スパイ防止法」「国旗毀損罪」「日本版CIA創設法案」…予想されるタカ派法案の提出、狙うは保守勢力による政権基盤強化か
週刊ポスト
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《累計閲覧数は12億回超え》国民の注目の的となっている宮内庁インスタグラム 「いいね」ランキング上位には天皇ご一家の「タケノコ掘り」「海水浴」 
女性セブン
米女優のミラーナ・ヴァイントルーブ(38)
《倫理性を問う声》「額が高いほど色気が増します」LA大規模山火事への50万ドル寄付を集めた米・女優(38)、“セクシー写真”と引き換えに…手法に賛否集まる
NEWSポストセブン
ネックレスを着けた大谷がハワイの不動産関係者の投稿に(共同通信)
《ハワイでネックレスを合わせて》大谷翔平の“垢抜け”は「真美子さんとの出会い」以降に…オフシーズンに目撃された「さりげないオシャレ」
NEWSポストセブン
中居正広氏の近況は(時事通信フォト)
《再スタート準備》中居正広氏が進める「違約金返済」、今も売却せず所有し続ける「亡き父にプレゼントしたマンション」…長兄は直撃に言葉少な
NEWSポストセブン