制度のきしみが起きているのは、川上ばかりではない。ほぼ時を同じくして、劣悪な返礼品がSNS発で“炎上”した。

 10月5日、ふるさと納税の返礼品として送られてきた「黒毛和牛薄切り」が「ほとんど脂身」だったというユーザーがツイッターにその不満とともに返礼品の写真を投稿した。このツイートはまたたく間に拡散され、ネットニュースを皮切りに、新聞やテレビなどにも次々に取り上げられた。

 実際、ほぼ脂身に見える画像に当初は「これはひどい」と自治体や返礼品事業者への批判が殺到していた。しかし土日にも関わらず自治体や事業者が謝罪など速やかに対応したことで、自治体への逆風は弱まった。いやそれどころか同タイミングで各メディアの取材を受けたツイート主の「あまり自治体を責めすぎないで欲しい」などのコメントが報じられると、ネット民は敏感に反応。攻撃の矛先はツイート主へと向いた。

 ニュースサイトのコメント欄には「ならなぜ晒したのか」「そう思うなら最初から当事者間でやり取りすれば」という手加減知らずのコメントが続々と増えていった。ネットの論調は一瞬で風向きが変わる。その後、ツイート主は「行政・企業の今後の対応、運営に支障を及ぼす恐れがあることから」と、端緒となったツイートを削除。「相当の期間経過後」にはアカウント自体の抹消も予告している。

 インターネットでは、誰かを手加減することなく叩きのめす修羅が跋扈してきた。荒涼とした原野では、防衛本能が攻撃性に転化することもある。だが、“脂身騒動”では、自治体と返礼品事業者は迅速に対応し、ツイート主も謝罪を受け入れ、個人と自治体(と事業者)間のトラブルは解決へと向かった。

 ふるさと納税には返礼品の質を担保する仕組みがない。だが消費者は返礼品を求め、自治体は”納税”をほしがる。両者の間にあるものは商取引に限りなく近いが、あくまで”納税”だと考える自治体のなかには、返礼品を選定してしまえば、あとは返礼品の提供事業者任せというケースもあると聞く。今回は当事者同士で納得は得られたものの、今後も似たトラブルが起きる可能性は少なくない。

 国(総務省)VS自治体(泉佐野市)という川上での対立にも解決の兆しは見えない。導入から10年以上が経っているのに、川上から川下まですべての流域でトラブルが起きている以上、ふるさと納税という仕組み自体の再点検が必要だ。

 そのためにも、まずは両者がテーブルにつき互いの課題と思惑を話し合う。国と地方は敵対する関係ではない。国も自治体も同じ国に住まい、そこに暮らす人々の暮らしを守る存在であるはず。まさか、国民や住民の顔が札束に見えている……なんてことはありませんよね……。

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