芸能

映画『ジョーカー』が描いた「下級国民の反乱」(橘玲)

映画『ジョーカー』が大きな反響を呼んでいる背景になにがあるのか(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM &(C)DC Comics

映画『ジョーカー』が大きな反響を呼んでいる背景になにがあるのか(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM &(C)DC Comics

 現在公開中の映画『ジョーカー』(ホアキン・フェニックス主演)が、公開直後から世界的なヒットとなっている一方で、アメリカではその衝撃的な内容が社会の脅威となりかねないと不安視する声も出るなど、大きな社会現象となりつつある。『ジョーカー』がなぜ反響を呼ぶのか。その背景になにが描かれているのか。著書『上級国民/下級国民』(小学館新書)で世界的な分断の構図を解き明かした作家の橘玲氏が、『ジョーカー』の世界観とその背景を読み解く。

【*以下の記述は映画『ジョーカー』の重大な「ネタバレ」を含みます】

 * * *
 映画『ジョーカー』が世界的に大ヒットし、同時に論争を巻き起こしている。アメリカンコミック『バットマン』のあまりにも有名な悪役を主人公にしたこの映画にはさまざまな見方があるだろうが、ここでは拙著『上級国民/下級国民』から読み解いてみたい。なぜなら映画『ジョーカー』が描いたのは、まさに「下級国民の反乱」だからだ。

「下級国民」とは、本来は社会の主流派(マジョリティ)であるはずなのに、「いつのまにか社会の最底辺に押しやられてしまった」と感じているひとびとだ。アメリカ社会の主流派は白人だから、「下級国民」は「中流から脱落した白人」ということになる。その典型はトランプの熱烈な支持者たちで、「白人至上主義者」と呼ばれる彼らは荒廃したラストベルト(錆びついた地域)に吹きだまり、ドラッグ・アルコール・自殺で「絶望死」している。

黒人の登場に一貫した規則か

『ジョーカー』の主人公アーサー・フレックは30代と思しき白人男性で、スタンダップコメディアンを目指しながらも、閉店セールの宣伝で道化役をするくらいしか仕事がない(その仕事も不良たちに看板を奪われて失ってしまう)。老朽化したアパートに母親と二人で暮らしているが、母親は認知症で、自身も突発的に笑いが止まらなくなる病気を患っている。

 アーサーには向精神薬が必要で、処方箋を書いてもらうため定期的に福祉施設のセラピストと面談している。黒人女性のセラピストに対して、アーサーは「自分はまるで存在していないかのようだ」と繰り返し訴える。

 それ以外にも『ジョーカー』には、アーサーが黒人と会話する場面が何度か出てくる。

 バスのなかで黒人の子どもに「いないいないばあ」をしたことで、母親から「うちの子にかまわないで」ととがめられる。アパートのエレベーターで偶然、若いシングルマザーの黒人女性と短い会話を交わし、その女性が同じ階に住んでいることを知る。精神科病院に母親のカルテを見に行ったときは資料係の黒人男性が対応し、映画の最後、精神科病院に収容されたアーサーは黒人女性の精神科医の診察を受ける。

関連記事

トピックス

前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
昨年ドラフト1位で広島に入団した常広羽也斗(時事通信)
《痛恨の青学卒業失敗》広島ドラ1・常広羽也斗「あと1単位で留年」今後シーズンは“野球専念”も単位修得は「秋以降に」
NEWSポストセブン
中日に移籍後、金髪にした中田翔(時事通信フォト)
中田翔、中日移籍で取り戻しつつある輝き 「常に紳士たれ」の巨人とは“水と油”だったか、立浪監督胴上げの条件は?
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
新たなスタートを切る大谷翔平(時事通信)
大谷翔平、好調キープで「水原事件」はすでに過去のものに? トラブルまでも“大谷のすごさ”を際立たせるための材料となりつつある現実
NEWSポストセブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン
元工藤會幹部の伊藤明雄・受刑者の手記
【元工藤會幹部の獄中手記】「センター試験で9割」「東京外語大入学」の秀才はなぜ凶悪組織の“広報”になったのか
週刊ポスト
映画『アンダンテ~稲の旋律~』の完成披露試写会に出席した秋本(写真は2009年。Aflo)
秋本奈緒美、15才年下夫と別居も「すごく仲よくやっています」 夫は「もうわざわざ一緒に住むことはないかも」
女性セブン
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
【初回放送から38年】『あぶない刑事』が劇場版で復活 主要スタッフ次々他界で“幕引き”寸前、再出発を実現させた若手スタッフの熱意
【初回放送から38年】『あぶない刑事』が劇場版で復活 主要スタッフ次々他界で“幕引き”寸前、再出発を実現させた若手スタッフの熱意
女性セブン
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
女性セブン