ウサイン・ボルトが出資する電動キックボード貸出サービス「ボルト・モビリティ」。将来は電気自動車も視野に。
そもそも、スマホアプリから位置を把握してサービス連携して「レンタルする」というやり方はカーレンタル・カーシェアからスタートしたものだったのだが、より短い距離で使えるものに価値があるのでは……という発想から、自転車へと幅を広げていった経緯がある。
そして現在は、自転車よりもさらに距離の短いモビリティへと広がっている。「電動キックボード」だ。電動キックボードは、タイヤも小さく立ち乗りなので長時間使うには向かない。しかし、時速10キロから15キロ程度とそこそこスピードが出て、小回りも利く。15分歩くのは大変だが、電動キックボードで移動すればその半分から3分の1の時間で移動できて疲れない。
街中にキックボードがおかれていて、スマホアプリからロックを外して乗る。利用が終わったら、スマホアプリからロックをかけて「乗り捨てる」。使った時間に応じて料金が支払われるが、30分使って数百円、というところだろうか。決して安くはない。だが、ちょっとした距離を素早く移動するには確かに便利だ。
対応の電動キックボードは中国で量産されており、参入障壁は低い。便利で利用者が増えていることから、海外、特にアメリカの西海岸やフランスなどでは、電動キックボードが大きなビジネスになっている。なんとフランスでは、あのウサイン・ボルトが、自ら出資して「ボルト・モビリティ」という自分の名前をつけたサービスを始めたくらいである。
◆安全性に美観、次々と指摘される問題
だがこの電動キックボードシェアリング、可能性が大きいと同時に問題も多い。
まず指摘されるのは「安全性」だ。誰でも簡単に乗れるが、車輪が小さく転びやすいこと、それなりに速度が出ることなどから、転倒事故や衝突事故が起きやすい。フランスでは、9月から全土で、歩道での電動スクーター利用が禁止された。それに先立ち、4月3日には、パリ市内の歩道で電動スクーターを走らせることを禁止する条例が制定されている。
電動キックボードシェアの世界的大手である「Lime」は、安全性をアピールするため、2018年11月から、25万個のヘルメットを無償配布するキャンペーンを行なっている。サービスのルール上はヘルメットの着用が推奨されているし、交通法規上必須とされる国もあるのだが、使っていない人も多い。
次に「美観」。街中の好きなところで乗れて、好きなところで乗り捨てられるのはとても便利だ。だがその一方、無秩序に放置されやすく、街の美観が荒れやすい。前述の危険性と合わせ、「私たちの街に電動キックボードを導入して欲しくない」という活動もある。2019年春に筆者がロサンゼルス近郊のビバリーヒルズを訪れた際、この場所では「キックボードの乗り捨てが禁止」されていた。アプリ上でも、「この地域で乗り捨てるとアカウント剥奪などの処置が行なわれる可能性がある」との警告が表示されていた。