頑固・杓子定規タイプの口癖から、イライラ型へと移行していくケースについても、注意が必要だ。
いつも「あの頃はよかった」とこぼす人は少なくない。会社員として仕事で成果を残した頃と現在を比べてしまい、つい口をついてしまうフレーズだが、これも気をつけたほうがいい。認知症に詳しい蔵前協立診療所所長の原田文植医師が語る。
「脳の特性として、順調だったことよりも“つまずき”を記憶しやすい。失敗を繰り返さないための傾向だと考えられていますが、加齢により失敗の記憶が増えていくと、どんどんネガティブな思考になり、『どうせ○○だろ』『もうだめだ』『死にたい』『疲れたよ』など後ろ向きな言葉を口にしがちです。これが口癖になってしまうと不安や焦燥を呼び、うつ状態に陥ってしまうこともある」
歳を重ねると自然と後ろ向きな思考や口癖が増える傾向になるので、意識して「人生はまだこれから」「今が一番」「まだ大丈夫」などの言葉を口にするよう心がけることが望ましいと、原田医師はアドバイスする。
「“認知症になったら終わり”と考えてしまいがちですが、症状や進行に個人差がある。身体や記憶力が若い頃に比べ、少しくらい落ちるのは当然です。
口癖を変えることで重篤な副作用はない。今後どう生きたいか、など前向きの言葉を口にすることが、焦燥を消し、症状の進行を遅らせることも期待できます」
認知症という未解明な部分が多い困難な疾患と闘うためにも、何気なく毎日、口にしている言葉のひとつひとつをチェックしていくことから始めたい。
※週刊ポスト2019年11月22日号