リクルート+スーツがさらに簡略化されたリクスー。本書ではこの奇妙な造語が2000年代に誕生する遥か以前、つまり明治期に洋装が奨励され、元は男子の正装に対する平服だった背広が大人の仕事着として定着する経緯を遡る。その上で、各時代の就活シーンを巡る言説を具(つぶさ)に検証していく。

 例えば『学生 島耕作』で1969年に初芝電産を受けた島は学生服だったが、中村雅俊が主人公カースケを演じた『俺たちの旅』(1975年)ではスーツ姿の学生も混在。学生の服装の自由化が進んだ1960年代以降は、学生服の〈非日常性〉が悪目立ちするように。面接官から率直な本音を求められた彼らはその場しのぎの学生服を避け、最低限の礼儀として背広を選ぶようになったのではないかと田中氏は書く。

 また背広=〈出世ウェア〉とのレトリックは、その予備軍である学生に紺の若々しい着こなしの有利さを自覚させた。だから彼らは渋いグレーを避けた。そして、チャコールグレー=〈ドブネズミ・ルック〉のイメージは、グレーにとって災難となった。

「この言葉は花森安治の1967年の論考『どぶねずみ色の若者たち』が初出で、若者の装いが会社に入った途端、背広一辺倒になるのを嘆いた言葉なんです。それが地味な中年の象徴のように誤解されて広まり、チャコールグレーが敬遠されていきました。

 そもそも行動規範を他人の就活成功体験や口コミに頼る〈根拠の外部性〉や、稼働中の社会システムに自身を適応させてしまう心性は、リクルートスーツに限らない。今の一括採用制度が変わらない限り、当の学生に没個性だとか言うのは筋違いに思えます」

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