インテリアも飾らないデザインに(ホンダ新型フィット)
たとえば5ナンバーセダンの「グレイス」など、ヘッドクリアランスを犠牲にしてでもシアターレイアウトを守っている。ミニバンの先代「オデッセイ」など、あの平べったいボディのなか前列、中列、後列と、きっちり段差をつけていた。
第4世代フィットのプロトタイプの後席も、そのポリシーは明確に維持されていた。前席のシートバックやヘッドレストが目の前に立ちはだかって横しか見えないということはなく、後席からフロントビューを見渡せるのである。
「現行フィットもシアターレイアウトは印象的でしたが、外見上はデザインが煩雑だったため、そういうふうには見えませんでした。あるいはそう見せないようにというホンダさんの開発陣の工夫だったのかもしれません。
ですが、今度のフィットのようにそれを隠そうとしないほうが、ホンダさんが何を大事にしているのかということがダイレクトに伝わってくると思います。クルマを白物家電にしてはならないという思いでデザインを磨いてきましたが、白物を突き詰めるとこういう魅力が出るのかと、勉強されられたような気がしました」(前出・ライバルメーカーのエンジニア)
これまでのエキサイティングHデザインのハイテンションにすぎるデザインから一転、エレメンタルデザインへと大変貌を果たすフィット。その変わり身が吉と出るか凶と出るかは来年2月の発売を待たなければ分からないが、ホンダにとっては絶対に成功させなければならないモデルであろう。何となれば、これは八郷隆弘社長が2015年に社長に就任してから企画開発が始まった、事実上の普通車第1号モデルだからだ。
八郷氏は前社長の伊東孝紳氏の急拡大戦略にともなう“粗製乱造”の後遺症でホンダの斜陽化が始まったという難しい状況の中で社長に就任した。社内での権力基盤が脆弱で経営をうまくコントロールできず、経営方針「2030年ビジョン」は従業員の不興を買い、経営改革も進まず、業績は下降線を辿るばかり……と、まるでいいところがなかった。
そんなネガティブなイメージが先行する一方で、微妙な変化が表れ始めたのは商品開発。昨年の軽商用車「N-VAN」、今年の軽セダン「N-WGN」と、自然体でかつ知的なアイデアが盛り込まれたモデルが登場しつつあった。それに続く第4世代フィットの仕上げを見るに、見せかけではなく本質で勝負というクルマ作りが“八郷カラー”によるものであることは、どうやら間違いなさそうだ。