「こうした笑顔こそがスポーツボランティアの存在理由です」と二宮准教授が続ける。
「これまでのボランティアは立場の弱い人を助けたり、災害で困った人の力となることが主流でした。しかし時代とともにボランティアが多様化するなかで、“自分自身が楽しむ活動”としても注目されているのがスポーツボランティアです。自らの意思で参加し、スポーツにかかわるすべての人々を笑顔にするのがその大きな役割です」(二宮准教授)
みんなを笑顔にする活動の象徴が、各地で咲き乱れたハイタッチだ。今大会は各会場でボランティアが「行ってらっしゃい!」「おかえりなさい!」などと声をかけながら右手を掲げて長い列をつくり、多くの観客とにこやかにハイタッチを交わした。
中には恥ずかしそうにうつむきながらそそくさと立ち去る人や、普段ハイタッチなどしたことないだろうが意を決して列に近づき右手を挙げるも、残念ながらタイミングが合わず“ギクシャクした触れ合い”になった人もいたが、ボランティアたちが醸し出す「幸せな空間」に異を唱える者は見当たらなかった。
振り返れば、日本のボランティアのターニングポイントは1995年だった。この年、約6500人の命を奪った阪神大震災が発生すると、全国からやむにやまれぬ思いで集まった人々はのべ137万人に達し、「ボランティア元年」と呼ばれた。それから被災地ボランティアが徐々に根付き、2011年の東日本大震災ではのべ550万人が参加した。
一方で「ボランティアを自ら楽しむ」という習慣はなかなか浸透しなかったようだ。ボランティアには奉仕や自己犠牲のイメージがあり、中高生が内申書の評価を高めるために参加することがあった。2002年のサッカー日韓W杯にも運営ボランティアがいたが、規則を遵守するあまり融通が利かず、観客とトラブルになるケースが報告された。
だが今回のラグビーW杯を見て、「ボランティアって楽しいんだ」「ボランティアが笑顔を見せてもいいんだ」と気づかされた人も多いはずだ。
笑顔や楽しさは響き合って波及する。ボランティアと笑顔で接した観客は気分が盛り上がり、観客から「ありがとう」「サンキュー」と感謝を伝えられたボランティアは活動がますます楽しくなる。施す側と受ける側のポジティブな相互作用が「幸せな空間」をもたらす。
広い意味で11万人のスポーツボランティアが活動する東京五輪・パラリンピックに必要なのも、「自ら進んで笑顔や楽しさを提供するボランティア」ではないだろうか。