時の流れはたびたび近未来を描いた作品に追いつき、そして追い越してきた。手塚治虫が心やさしい科学の子を描いた漫画『鉄腕アトム』(1952年~1968年)のアトムが生まれたのは2003年4月7日。高度成長を経ると第三次世界大戦や核戦争勃発のイメージが強くなり、武論尊原作・原哲夫作画の漫画『北斗の拳』(1983年~1988年)では199X年に地球が核の炎に包まれた。GAINAX制作のアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年~1996年)の舞台は2015年とされる。
そしてついに、『ブレードランナー』や『AKIRA』、『2020年の挑戦』の時代設定に現代が追いついた。第三次世界大戦こそ起きていないが、いまは近隣の中国の大国化や北朝鮮の核開発、韓国との対立で日本の安全保障は危機的状況を迎え、ケムール人が象徴する超高齢化社会が到来した。
人々の暮らしを一変する5G(第五世代移動通信システム)や自動運転車の商用化が迫り、AI(人工知能)が人間を凌駕するシンギュラリティも遠くないとされる。往年の名作が描いた近未来に、現実が追いつこうとしているのだ。
しかしその一方で、「追いついた先に何があるか」という問題が立ちはだかる。ひと昔前までは「科学技術が発展して幸せな暮らしをするはず」と漠然と感じられたが、現代は政治や経済など様々な面でこれまでのシステムが行き詰まり、なかなか明るい未来を描けない。ポジティブにせよネガティブにせよ、過去の名作が想像力豊かに描いた近未来のイメージを、現代に生きる地球人は抱きにくくなっているのかもしれない。
東京国際映画祭で『ウルトラQ』が上映された後、トークショーに参加した劇作家の中島かずきは、時代が作品に追いついたことについて、こう語った。
「現在は我々が夢見ていた21世紀とは違っていて、あの夢見た21世紀とは何だったんだろうと『ウルトラQ』を見ると思いますね」
若かりし頃に夢中になった近未来モノの作品は、どの時代を舞台にしていたのか。そして私たちは、この先どこへ向かうのか──2019年の暮れは、そんな観点から過去の作品に思いをはせるのも一興かもしれない。
●取材・文/池田道大(フリーライター)