ライフ

キリスト教国と異なる日本のクリスマス カスタマイズの歴史

日本のクリスマスは独自の進化を遂げてきた

 なぜ日本人はクリスマスが好きなのか。考えてみれば不思議な事象である。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が紐解く。

 * * *
 日本におけるクリスマスの過ごし方は、キリスト教国のそれとは違う。宗教行事の一環でもある欧米のクリスマスでは市民は当たり前のように仕事を休み、飲食店もシャッターを下ろして、家族とともに団らんを満喫する。食卓にはオーブンで焼かれたターキーやローストビーフが登場する。

 一方、日本のクリスマスのスタイルは独特だ。きらめくイルミネーションの下、カップルが愛を誓い合う。飲食店はかきいれ時とばかりにこぞって看板を灯し、パーティ予約もがんがん受けつける。家庭のクリスマスにおいてもターキーのような巨大な丸鳥を焼くことができるオーブンはなく、買ってきた解体済みのローストチキンが食卓に上る。そこには宗教行事としての色がない。国民の多くがゆるやかながら神道か仏教の徒であり、キリスト教徒の数はわずか1%台なのだから、宗教色など盛り込めようはずもないのだ。にも関わらず、日本のクリスマスは年中行事のなかでも指折りの盛り上がりを見せる。

 日本のクリスマスは、どうやってこれほど自由闊達に楽しむスタイルを獲得したのか。

 話は明治時代に遡る。そもそも明治初頭から、横浜や神戸などの外国人居留地では外国人によるクリスマスパーティは毎年行われていた。

〈二十五日は年に一度のクリスマス祭日ゆえ横浜居留地の各商館及び各銀行はいずれも休業して思ひ思ひに祝祭をなし、また二十番グランドホテルに於いて夜会を催す〉(明治21年12月12日付朝日新聞)

 1889(明治22)年に施行された「大日本帝国憲法」で日本国民にも信教の自由が保障された。ただしそれは〈日本臣民は、安寧秩序を妨げず、かつ、臣民としての義務に背かない限りにおいて〉という限定的なもので、そこには当時の政府の複雑な思惑があったと考えられる。

 1899(明治32)年にはキリスト教の教育禁止を盛り込んだ私立学校令案第17条が出され、同年には外国人が経営する学校に対する規制強化が盛り込まれた私立学校令が発令された。明治政府は明らかにキリスト教を警戒していたのだ。ところが同年末、アメリカ公使館の招待を受けて、山県有朋総理大臣ほか日本政府の高官が公使館のクリスマスパーティに出席する。このパーティにはイギリス、ドイツ、ロシア、フランスなどの列強が名を連ねていた。日本のクリスマスの起源に詳しい『クリスマス どうやって日本に定着したか』(クラウス・クラハト/克美・タテノクラハト 角川書店)は当時の日本政府の心情をこう解釈する。

〈日本政府は、宗教としてのキリスト教は容認しがたかったものの、国際化のためには政教分離政策でこれに対処し、クリスマスに関しては西洋のお祭り(パーティ)、単なる社交と解釈したのではないだろうか。この時点で日本におけるキリスト教の地位、もしくはクリスマスの方向が明白にされたといっても過言ではない。本来、キリスト教の祭礼行事であるクリスマスが、これを機に一般の日本人の間にも広まり、耶蘇降誕祭とかけ離れたクリスマスが形成されていくのである〉

関連記事

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン