空港の税関で荷物検査を受け、そこで違法な品物が見つかれば没収されるし、運んできた人は内容物を知らなかったと主張しても取り調べを受けるし逮捕されることもある。ところが、これがインターネット上だと同じようにはいかない。海賊版をユーザーの手元に迅速に届けるためのサービス、いわばネットの運び屋のようなことをして海賊版業者のビジネスを実質的に助長しながら、被害の調査や防止への協力をいっさい拒んできた世界最大手の事業者に責任を認めさせるための動きについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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漫画や映画、小説、音楽に至るまで、世の中のありとあらゆる「コンテンツ」が、著作権者を無視してネット上に違法にアップロードされる事例が後を絶たない。昨年は、悪名高き海賊版漫画サイト「漫画村」の運営者がついに特定され、逮捕されたことも記憶に新しい。あらゆるテクノロジー、そして日本の司直の手が及びづらい第三国のサービスを駆使して身元を隠そうとも「違法は許されない」という正義が打ち勝ったようにも思えた。
しかし、海賊版サイトの一掃は「不可能ではないか」と言われてきたのも事実だ。「漫画村」の件を追い続けてきた新聞記者が言う。
「著作権者や出版者が、違法サイトの管理人に連絡しても無視されてきたという現実。違法データを置いておくサイトのホスティング業者、そしてサーバー業者、閲覧者がそのデータ利用をしやすいように調整する役割を果たす業者(コンテンツデリバリーネットワーク=CDN)も、日本の法律が有効でない国にある場合がほとんどで応じてくれない。守られるはずの著作権者は、自身の作品が第三者の手によって違法に拡散されたり、販売されるのを黙って眺めているしかなかった」
国境のないネット上での犯罪が、なかば野放しにされてきた現実を認め、まさに「打つ手なし」ということで、日本政府はこうした違法サイトに国内からの接続をさせないための「ブロッキング」実行の是非について有識者会議を開いたほどだ。しかし、こうした現状に一石を投じる動きが明らかになった。
「違法にアップロードされたデータと示されているにもかかわらず、何らの措置を取らず、保管や通信に関与して、結果的に不特定多数のユーザーに閲覧させていた疑いがあるとして、アメリカの業者に差し止め請求と損害賠償を求める訴訟を起こしました」
こう話すのは東京フレックス法律事務所の中島博之弁護士。被告であるアメリカの大手CDN業者・X社は再三にわたる違法コンテンツの削除・差止請求に対し、基本的に自分たちはコンテンツのホスティングを行なっていないため、コンテンツへのアクセスを削除、または無効にすることはできないと主張してきた。
その理屈の根拠としているのか、X社はサーバー(データセンター)上に保管・流通するデータが違法かどうかを監視しない、検閲をしないという基本姿勢にある。そして、違法なデータであると権利者より削除や差し止めの申し立てを受けても、根本的な違法データ削除や無効化は自分たちでは不可能だとして、海賊版サイト事業者へX社によるサービス提供が停止されることはなかった。