本作は、埜渡の担当編集者(男性)、不倫相手、作家、作家の新しい担当者(女性)、妻へと視点を移して、様々な角度から描かれる。樹木になって部屋に幽閉される妻を「見殺し」にしてまで原稿をとる男性編集者、分裂的気質を演じながら小説のモデルとなる不倫相手、「格上の」企業に勤める夫のプライドに閉口する女性編集者は琉生の森に分け入っていくと……。
妻がしなびていく描写があるが、一種の「精神的吸血(spiritual vampirism)」が描かれているとも言えるだろう。しかし琉生の森は部屋の境を越えていく。語られる者から語る者へと。
個人的には、昨年もっとも痛切に響いた一冊。ジェンダーの区別なくぜひ読んでほしい。
※週刊ポスト2020年1月31日号