池端さんは1991年の大河ドラマ『太平記』で室町幕府を開いた足利尊氏の物語を手がけたため、「いつかは室町幕府の後期を書きたい」と思い続けていたそうです。つまり、「大ベテランになってなお、その意欲を持ち続けていた」ということ。しかも「主人公・明智光秀の資料は少なく、特に若いころのものはほとんどない」という難しい状況に挑んでいるのです。
池端さんだけでなく倉本さんや大石さんなどの大ベテラン脚本家に共通しているのは、このような挑戦する姿勢。円熟の技術だけでなく、「新たな作品」や「今書くべき作品」に挑む姿勢があり、常に「これを書きたい」「もし書くことになったら」という臨戦態勢が整っているのです。
現在、連ドラを手がけている脚本家の多くは50代であり、次に多いのが40代後半。それぞれヒット作を持つ、経験豊富な顔ぶれがそろっています。
たとえば、朝ドラ『スカーレット』(NHK)の水橋文美江さんは56歳、『ケイジとケンジ』(テレビ朝日系)の福田靖さんは58歳、『10の秘密』(カンテレ、フジテレビ系)の後藤法子さんは53歳、前期では『シャーロック』(フジテレビ系)の井上由美子さんは58歳、『まだ結婚できない男』(カンテレ、フジテレビ系)の尾崎将也さんは59歳、『ドクターX』(テレビ朝日系)の中園ミホさんと『少年寅次郎』(NHK)の岡田惠和さんは60歳。
そんなアラフィフ、アラシックス(アラ還)の脚本家たちから見た大ベテランは、尊敬の念を抱くのはもちろん、自分たちの未来にもつながる希望のような存在になっているそうです。脚本家たちに大ベテランのことを聞くと、「レジェンドとしてだけでなく、現役バリバリとしての作品が凄い」と口をそろえるように言っていました。
技術と挑戦の両輪がある限り、現役バリバリのレジェンドが手がける作品は、同世代のシニア視聴者を喜ばせるのはもちろん、今後さらに若い世代の注目も集めるのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。