国内

京アニ事件の遺族が提起する「実名報道」「報道の自由」

カラーコーディネーターの資格を生かし、彩色一筋だった幸恵さん(写真/共同通信社)

 36人が亡くなり、33人が負傷した京都アニメーションの放火殺人事件。殺人などの容疑で逮捕状が出ている青葉真司容疑者(41才)は全身に重度のやけどを負い、大阪府内の病院から京都市内の病院に転院し、治療とリハビリに当たっている。

 この事件においては、マスコミでの「実名報道」について課題を残した。半数以上の遺族が匿名での報道を希望したが、事件で犠牲となった津田幸恵さん(享年41)の父・伸一さん(69才)はこう語る。

「今回、それぞれのご家族が名前の公表について用心したのも、マスコミに原因があると思います。発表することによってマスコミが必ず来る。それが怖いから拒否する人が出てきたんですよ。私としては、(娘の)名前を公表してもらってもいいけど、取材は別。それを間違えないでもらいたいです」

 実名報道の意義や可否については、さまざまな意見がある。

「名前には訴求力がある」と言うのは、名付けに詳しい京都文教大学の小林康正教授だ。

「名前は固有名詞の最も典型的なものとされています。その固有名詞の本来の意味は、そこにしかないもの、ほかに置き換えできないものです。固有名詞があることによって、それが事実であることの証明になる。

 京アニの事件では石田敦志さん(享年31)のお父さんが、相模原の津久井やまゆり園の事件では被害者である美帆さんのお母さんが匿名に対する意見を表しましたが、これは、事実を立ち上げる力が実名にある、と考えていらっしゃるからだと思います。事実を伝えるのが根幹である報道において、実名は非常に大きな力を持つんだろうと思います」

 一方で、ネットが発達した社会ではその力の大きさゆえ、名前の扱いには敏感にならざるを得ないともいう。

「昨今は、自分の名前は“いちばん重要なプライバシーである”という意識が強くなっています。その背景には、メディアスクラムの影響もあるでしょう。また、“忘れられる権利”が注目されていますが、ネットに一度拡散されたら消えることがない、“デジタルタトゥー”に対する恐怖もあるでしょう。実名や顔写真が公になると、ネット上では、生い立ちから学歴、職歴まで、次々とプライバシーが暴かれていく。その弊害から匿名を求める人が増えてきたのではないでしょうか」(前出・小林さん)

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
伊藤
【『虎に翼』が好発進】伊藤沙莉“父が蒸発して一家離散”からの逆転 演技レッスン未経験での“初めての現場”で遺憾なく才能を発揮
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
“もしトラ”リスクも…(写真/AFP=時事)
【緊迫する中東情勢】イラン・イスラエルの報復合戦、エスカレートすれば日本にも影響 “もしトラ”リスクが顕在化
週刊ポスト