津田幸恵さんの父・伸一さん(撮影/伏見友里)
今、日本の実名報道のあり方が過渡期にさしかかっている、とマスコミ論が専門の元専修大学教授で文芸評論家・権田萬治さんは指摘する。
「日本ではこれまで犯罪容疑者の氏名が匿名か実名かについて大きな問題となったことはありますが、被害者の扱いがここまで注目されることはなかったと思います。京アニ事件や相模原事件などでは、被害者の多くが匿名扱いになりました。
これは、事件そのものが前代未聞の残酷なもので、死傷者も多数だったこと、今もなお病床におられるかたがおり、メディアへの恐怖感が捨てきれないこと、実名が明かされるとプライバシーが暴かれ、SNSなどに匿名の無責任な情報やコメントが流されるのではないかという不安があること、などが背景にあったと思われます。
日本のメディアでは被害者も含めて、原則、実名報道が基本です。その理由は、国民の知る権利に応え、記事の正確さや説得力を担保するためとか、公権力の監視のため、などとされています。
今回の場合、事件の重大さと特異性による例外的な事例で、匿名扱いもある程度やむを得ないと考えますが、一方で、被害者を実名、写真入りで扱ってほしいと要望するご家族も現れるなど新しい動きも見られます。
もともと日本は、『桜を見る会』の招待者名簿問題などに象徴されるように、隠す文化が支配的です。アメリカなどのように物事をオープンにして解決する文化と対照的ですが、日本でもやっと新しい動きが出てきたと私は実感しています。被害者の実名・匿名の問題も、被害者側が社会に積極的に問題を訴えていくという視点から、今後考えていく必要があるのではないでしょうか」
欧米では半世紀以上も前から被害者問題が議論されてきたが、日本で被害者に目が向けられたのは、全国犯罪被害者の会『あすの会』(2018年解散)が2000年に設立されて以降のことだ。同会の顧問を長年務めてきた、「被害者学」の第一人者で元常磐大学学長の諸澤英道さんはこう語る。