青葉真司一覧

【青葉真司】に関するニュースを集めたページです。

京アニ放火 寝たきり容疑者に「逃亡の恐れ」どういう意味か
京アニ放火 寝たきり容疑者に「逃亡の恐れ」どういう意味か
 36人が死亡、33人が重軽傷を負った京都アニメーション放火殺人事件。事件から10か月が経過した5月27日、京都府警は治療中だった青葉真司容疑者(42)を殺人、現住建造物等放火容疑などで逮捕した。 入院先の病院から捜査本部のある伏見署、勾留先の大阪拘置所に送られた青葉容疑者はストレッチャーに横たわり、顔や腕には犯行時に負った火傷の痕が生々しく残っていた。「警察は勾留に耐えられるまで容態が回復したと説明する一方で、立ち上がることはできず、介助なしでは食事もできないと明かしている。逮捕状への署名を自力でしたことから手は動かせるようですが、異例の逮捕です」(全国紙社会部記者) 同日の警察の会見では記者から逮捕した理由を問う質問が相次いだが、「具体的には申し上げられませんが、もちろんそういう状況でも逃亡、罪証隠滅の恐れがあるということを判断した」と、言葉を濁した回答。だが、ストレッチャー移動に加え、「火傷が酷く、手錠もできなかった」(前出・社会部記者)という容態で、“逃亡や隠滅の恐れ”があるのか。アトム市川船橋法律事務所の高橋裕樹弁護士が解説する。「治療先の病院に協力者が来れば罪証隠滅は理論上可能。さらに手は動くということから容疑者の自殺という可能性も否定できない。万が一を防ぐために異例の逮捕に踏み切ったのでしょう」 取り調べは始まったが、未だ被害者や遺族へ謝罪の言葉はないという。「精神鑑定が入るので、起訴には最低でも4か月はかかる。被告人質問も容易ではなく、裁判は長期化が避けられず、判決に2年以上かかるのではないか」(高橋弁護士) 事件の全容解明が望まれる。※週刊ポスト2020年6月12・19日号
2020.06.01 07:00
週刊ポスト
カラーコーディネーターの資格を生かし、彩色一筋だった幸恵さん(共同通信社)
京アニ事件の遺族が提起する「実名報道」「報道の自由」
 36人が亡くなり、33人が負傷した京都アニメーションの放火殺人事件。殺人などの容疑で逮捕状が出ている青葉真司容疑者(41才)は全身に重度のやけどを負い、大阪府内の病院から京都市内の病院に転院し、治療とリハビリに当たっている。 この事件においては、マスコミでの「実名報道」について課題を残した。半数以上の遺族が匿名での報道を希望したが、事件で犠牲となった津田幸恵さん(享年41)の父・伸一さん(69才)はこう語る。「今回、それぞれのご家族が名前の公表について用心したのも、マスコミに原因があると思います。発表することによってマスコミが必ず来る。それが怖いから拒否する人が出てきたんですよ。私としては、(娘の)名前を公表してもらってもいいけど、取材は別。それを間違えないでもらいたいです」 実名報道の意義や可否については、さまざまな意見がある。「名前には訴求力がある」と言うのは、名付けに詳しい京都文教大学の小林康正教授だ。「名前は固有名詞の最も典型的なものとされています。その固有名詞の本来の意味は、そこにしかないもの、ほかに置き換えできないものです。固有名詞があることによって、それが事実であることの証明になる。 京アニの事件では石田敦志さん(享年31)のお父さんが、相模原の津久井やまゆり園の事件では被害者である美帆さんのお母さんが匿名に対する意見を表しましたが、これは、事実を立ち上げる力が実名にある、と考えていらっしゃるからだと思います。事実を伝えるのが根幹である報道において、実名は非常に大きな力を持つんだろうと思います」 一方で、ネットが発達した社会ではその力の大きさゆえ、名前の扱いには敏感にならざるを得ないともいう。「昨今は、自分の名前は“いちばん重要なプライバシーである”という意識が強くなっています。その背景には、メディアスクラムの影響もあるでしょう。また、“忘れられる権利”が注目されていますが、ネットに一度拡散されたら消えることがない、“デジタルタトゥー”に対する恐怖もあるでしょう。実名や顔写真が公になると、ネット上では、生い立ちから学歴、職歴まで、次々とプライバシーが暴かれていく。その弊害から匿名を求める人が増えてきたのではないでしょうか」(前出・小林さん) 今、日本の実名報道のあり方が過渡期にさしかかっている、とマスコミ論が専門の元専修大学教授で文芸評論家・権田萬治さんは指摘する。「日本ではこれまで犯罪容疑者の氏名が匿名か実名かについて大きな問題となったことはありますが、被害者の扱いがここまで注目されることはなかったと思います。京アニ事件や相模原事件などでは、被害者の多くが匿名扱いになりました。 これは、事件そのものが前代未聞の残酷なもので、死傷者も多数だったこと、今もなお病床におられるかたがおり、メディアへの恐怖感が捨てきれないこと、実名が明かされるとプライバシーが暴かれ、SNSなどに匿名の無責任な情報やコメントが流されるのではないかという不安があること、などが背景にあったと思われます。 日本のメディアでは被害者も含めて、原則、実名報道が基本です。その理由は、国民の知る権利に応え、記事の正確さや説得力を担保するためとか、公権力の監視のため、などとされています。 今回の場合、事件の重大さと特異性による例外的な事例で、匿名扱いもある程度やむを得ないと考えますが、一方で、被害者を実名、写真入りで扱ってほしいと要望するご家族も現れるなど新しい動きも見られます。 もともと日本は、『桜を見る会』の招待者名簿問題などに象徴されるように、隠す文化が支配的です。アメリカなどのように物事をオープンにして解決する文化と対照的ですが、日本でもやっと新しい動きが出てきたと私は実感しています。被害者の実名・匿名の問題も、被害者側が社会に積極的に問題を訴えていくという視点から、今後考えていく必要があるのではないでしょうか」 欧米では半世紀以上も前から被害者問題が議論されてきたが、日本で被害者に目が向けられたのは、全国犯罪被害者の会『あすの会』(2018年解散)が2000年に設立されて以降のことだ。同会の顧問を長年務めてきた、「被害者学」の第一人者で元常磐大学学長の諸澤英道さんはこう語る。「欧米では、1950年代後半には被害者問題への取り組みが始まり、1960年代には運動が起こり、1970年代には法整備が始まります。国連でも議論が始まり、1985年に通称・国連被害者人権宣言が採択されます。日本は『あすの会』が設立されたのを機に、ようやく目が向けられるようになったばかりです」 その諸澤さんは、被害者報道は匿名で、というのが原則だと説く。「加害者は実名、被害者は匿名というのが国際的なコンセンサスです。実名報道を考える時には公共性があるかどうかで判断しますが、事件や加害者の情報は“公共の利害に関する情報”だが、被害者情報には公共性がないというのが国際的な原則です。 日本では、2004年に成立した『犯罪被害者等基本法』の基本理念に『個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利がある』と書かれています。被害者は一人ひとり違い、知る権利があると同時に、プライバシーと名誉を守られる権利があるのです」(諸澤さん) 一方で、国連の取り組みは実名報道できる社会になることが目的だという。「今の日本でなぜ匿名を希望するかというと、実名を出してはあまりに不利益を被るから。ですが、アメリカでは被害者も加害者の関係者なども顔出しで取材を受けたり裁判で証言したりできる。社会全体が温かく優しいため、隠す必要がない社会だからできること。 国連の究極の目的は、人間の尊厳を大切にする社会。そうなった暁には、匿名である必要はないんです。そうなっていない社会だから被害者に不利益が時として起こる。今の日本はまだその状態にあるため、実名であれ匿名であれ、被害者や遺族一人ひとりの意思を尊重すべきです」(諸澤さん) 津田さんも事件を通じて、「言論の自由、報道の自由はありますが、自分の自由で人の権利を侵したり自由を脅かすことは暴力だと思います」と語っている。※女性セブン2020年2月20日号
2020.02.09 07:00
女性セブン
津田幸恵さんの父・伸一さん(撮影/伏見友里)
京アニ放火事件、遺族が呆れる「無礼で無遠慮な取材者たち」
 36人が亡くなり、33人が負傷した京都アニメーションの放火殺人事件から半年。現場となった第1スタジオは、高く組まれた足場とグレーの防音シートで覆われ、この1月から解体工事が始まった。 殺人などの容疑で逮捕状が出ている青葉真司容疑者(41才)は全身に重度のやけどを負い、大阪府内の病院から京都市内の病院に転院し、治療とリハビリに当たっている。「犯人には何の感情もありません。考えたり思ったりしても何の意味もありませんから」 そう話すのは、事件で犠牲となった津田幸恵さん(享年41)の父・伸一さん(69才)。 幼い頃から絵を描くのが得意だった幸恵さん。念願の京都アニメーションに入社して20年、仕上げの彩色を担当し、人気作品を長年手がけてきた。帰省のたびにいろいろなお土産を買ってきてくれる気遣いがうれしく、忙しくも充実している様子を幸恵さんの表情から感じていた。 そんな津田さんの生活は昨年の夏を境に、すべてが一変した。 *「ほんまやったらあと2、3年は働こうと考えてたけど、もう引退です」 電気設備設計の仕事をしている津田さんは県外の現場に出かけることも多く、泊まりこみも少なくない。まだまだ働けるが、引退を決意した。「近所に出かけるぐらいはいいけども、長距離となるとダメ。運転しながら、ふと幸恵のことに思いが及んでしまうんです。 そうすると、苦しくなるほど涙が出て、前が見えなくなってしまってね。運転中では事故になりかねないでしょ? もうすぐ運転免許の更新があることですし、返納することに決めたんです。車が運転できなければ、これまでのように仕事はできないんでね。もういいですわ」 生活スタイルも変わった。買い物は客足の少ない平日の午前中。最近はネットで済ませることも多くなったという。「人のいる場所に出かけることがしんどいんです。事件直後は、朝、目が覚めても何もする気が起きず、何も考えられない毎日。朝から何も食べてないのに、夜になってもお腹が空かない。横になっても、寝てるか寝てないかもわからないような感覚。もちろん、疲れがたまって落ちるように寝てはいたんでしょうけど、あの頃のことは覚えていません」 津田さんへのインタビューを通して、「メディアスクラム」「実名報道」について考えてみたい。◆メディアスクラム──無礼で無遠慮な取材者が一気に押し寄せた 事件翌日から殺到した取材に、津田さんは断ることなく対応してきた。その理由は、「だってここまで来てるのに、追い返すのも気の毒でしょう」 実際、2か月間で37社に及ぶ取材を受けてきたが、事件報道に対する疑問をいまだ解消できないでいるという。「私がわからないのは、報道する意義です。それについて取材者に問うと、『二度と同様の事件が起きないようにするために事実を報道する』と言うかたもいます。でも、それが何の役に立つの? 教訓になるの? 今回の事件を報じて何か抑止になるの? 抑止するなら犯人側のことを報じればいいんじゃないの? そう思います。 取材に来られたかたたちはそれぞれ、事件報道への信念や思いを話してくれました。そういう姿勢で取材をされているということは理解できましたが、私が納得できる答えはありませんでした」 大きな事件・事故が起こった直後、被害者や遺族が直面させられるのがメディアスクラムだ。「事件当日、私は自宅にいました。10時半頃に事件が起きて、テレビで報じ始めたのが昼前後やったかな。それからは幸恵の携帯電話にかけたり会社に問い合わせたり、落ち着かないまま過ごして」──当日、現場に向かわれましたか?「行ってくれたのは幸恵の妹です。京アニの本社に行くと、同じように駆けつけたご家族が何組かいたそうです。 なんでもいいから事情を聞きたいとみな必死やった。何もわからないから現場に来てるのに、本社の外に出ると、堰を切ったように報道陣にワッと取り囲まれて質問攻め。タレントのゴシップを扱うのと同じようにライトで照らされ、マイクを突き出されて…たいへんやったそうです。 もっとね、不正を質すとか、最近であれば『桜を見る会』の疑問を問うためにやるならわかりますけど、取材のかたがたは政治家には腰が引けてるようにしか見えない一方で、事件の被害者にそんなことをするのかと。 その翌日、私が行った時も2組ほどご家族がいらっしゃいましたが、泣き崩れていました。心配や不安の極限にいる人たちに、まだ何もわかってないのに『今の気持ちは?』って聞かれても、心配で心配で仕方ないだけ。わかりきってるでしょう。そういうのは避けてほしいなと思いました」──津田さんが現地に向かわれたのは?「事件翌日、DNA鑑定のため、肉親のDNAを採取する必要があるという連絡を受けて、京都に向かいました。そして、第2スタジオに立ち寄った際に初めてテレビ局(NHK)の取材を受けたんです。 そして、『改めて取材をしたい』と、次の日の昼間に自宅に来られた。外がまっ暗になった頃にやっと取材が終わって、ホッとしていたらインターホンが鳴ったんです。 玄関を開けると今度は、カメラを手にした別のテレビ局の男性が1人で来ていました。『NHKに出てたから、うちの局でも“顔出し”をしてほしい』って言うんです。顔出しは断りましたが、話を始めた時に、また別のテレビ局のカメラマンが1人でやって来ました。2人とも肩に担ぐような大きなカメラで…あれやね、あの大きなカメラいうのは威圧感があるね。何を聞かれたかほとんど覚えてもないけど、疲れたことしか覚えてないわ」──その日から毎日?「新聞、テレビ、通信社、雑誌…と毎日です。入れ替わり立ち替わり、誰かしらがほぼ毎日。切り出しの言葉こそ、『このたびは…』と慎重ですけど、あとがひどい。『今のお気持ちは?』って皆さん聞く。そんなもん、言わんでもわかるやろと。それぐらい察してくれよと思いますよ。『事件についてどう思うか?』、『どんなお嬢さんでしたか?』、『小さい時は?』、そんなん、ワーワー言われて…そして最後にみんな、判で押したように聞くんです。『犯人には何を思うか?』、ズケズケ聞くなよ、と。でも、聞きたいんやろうね。それが仕事なんやろね。 中には、『上(上司)から言われて来たものですから』なんてかたもいましたよ。そんなの、ニュースや記事にしたいだけの取材じゃないですか。それなら何をしゃべっても意味がないんじゃないかと思ってしまう」◆遺影の位置を自分が撮りたい角度に変えたりもする──配慮に欠けた取材が少なくない?「取材のかたが撮影させてほしいと言えば、幸恵の写真や荷物を私は見せていました。断り切れないんでね。 で、一通り話したあとで、『遺影を見ながら、もう一度同じ話をしてください』って言うんです。そんな芝居みたいなことはね、嫌やったね。私は俳優やタレントじゃないんですから。 それから、自分が撮りたい角度に変えようと、遺影をいきなり勝手に動かすカメラマンもいた。遺影やお骨を無断で触るなんて…配慮が欠けているというより、気遣いそのものがないんです。 特にテレビ局の取材には抵抗がありましたね。わけのわからんペーペーを寄こすなと言いたい。若い人を派遣する会社の責任もあると思う。 あと、皆さん、しゃべる速度が速すぎる。相手の受け止め方を見もせずに、一方的にワーワー言ってくる。最初に名乗って、相手が落ち着いているようなら、これこれこういうことだけでもお伺いしたいと言って、了解をとってから話してほしい。こちらは心が傷んでいるんだから。その程度の気遣いができない記者を寄こさないでほしい。取材相手の状況や状態を考えられるだけの心を持ってほしい。 もちろん、そんな記者ばかりではありません。取材にならなくても来てくれて、落ち着いてまじめに話を聞いてくれるかたもいる。そういうかたにはこちらもきちんと話そう、そう思いました」※女性セブン2020年2月20日号
2020.02.07 07:00
女性セブン
動機の解明はこれから(松浩不動産帝京)
京アニ放火殺人・青葉真司容疑者の自宅家賃が払われ続ける謎
 死者36人を出した京都アニメーション放火殺人事件から5か月が経過したが、青葉真司容疑者(41)の逮捕には至っていない。「事情聴取は11月から開始されているが、全身火傷で生死の境をさまよっていたこともあり、回復を見ながら逮捕に踏み切る予定だ」(全国紙社会部記者) 動機などの解明がなかなか進まないなか、宙に浮いたままとなっているのが青葉容疑者が事件当時に住んでいたアパートの“処遇”だ。事件当日夜、報道陣が殺到し、幾度となく住民のインタビュー映像が流れた“現場”では、現在も青葉容疑者の部屋はそのままだ。オーナーの親族が語る。「部屋は居住支援会社との法人契約になっています。会社から、家賃がいまも振り込まれている以上、こちらからは何もできません」 居住支援会社とは保証人を立てられない人に代わり契約を行なう法人だ。 当該の居住支援会社に家賃を払い続けている理由を訊くと、「個人情報で答えられない」としたうえで、「あくまで一般論として」と前置きして説明する。「法律上、逮捕された場合でも、本人と面会し、解約書面をもらわない限り解約はできません」 今後、解約が成立した場合の部屋の扱いについて、前出のオーナー親族は、「部屋で事件が起きていないため、“事故物件”の告知の必要はないと考えています。事件後、部屋に入れていませんが、修繕して賃貸に出す予定です」と話す。 ただ、いつになるのか、目途は全く立っていない。※週刊ポスト2020年1月3・10日号
2019.12.27 16:00
週刊ポスト
11月14日、青葉真司容疑者は京都市内の病院へ搬送された(時事通信フォト)
「しくじり世代」が京アニ放火男へと堕さないために必要なこと
「しくじり世代」とは、団塊ジュニア・ポスト団塊ジュニアに対して近著『ルポ 京アニを燃やした男』が話題の日野百草氏がつけた呼び名だ。彼らは1993年~2004年頃のバブル崩壊後の新規採用が特に厳しかった時期に新卒を迎えた就職氷河期世代であり、30~40代になった今も非正規雇用、なかでも正規を望んでいるのに叶えられずにいる割合が高い。総務省の労働力調査によれば、35~44歳人口は1679万人、そのうち非正規雇用は28.8%にものぼる。その、しくじり世代のひとりが、未曾有の大惨事となった京都アニメーション放火事件の容疑者だった。みずからも「しくじり世代」である日野氏が、容疑者のしくじりから、30~40代の生き延び方を考えた。(文中一部敬称略) * * * 2019年7月18日、京都アニメーション第一スタジオに押し入り放火、36人もの日本が誇るクリエイターたちの命を奪った青葉真司。 彼は全身の90%もの火傷を負いながらも、近畿大学医学部附属病院熱傷センターが誇る最先端の医療技術によって生き長らえた。 34人の死亡後、2名が別の病院で入院中に亡くなられたことを考えると青葉の命拾いは納得いかないが、青葉は病院で「こんなに優しくされたのは初めて」などと泣いたという。別に青葉の命が大事なのではなく、青葉を被疑者死亡で幕引きさせないため、そして責任を取らせるためであり、私からすればこれだけのジェノサイドを実行しておいて、どこまでも自己本位かつおめでたい性格としか思えない。 青葉は犯行時41歳。1978年生まれの氷河期世代にあたる。私は1972年生まれ、私も仕事で何度かお会いした京アニの犠牲者の一人、武本康弘監督も1972年生まれの同学年だ。 拙著『しくじり世代』は奇しくも本事件と同年同月に刊行された。1971年から1981年生まれの団塊ジュニア、ポスト団塊ジュニアを取り上げたノンフィクションで、同世代の青葉と重ねて紹介されたこともある。今年1月の野田小4虐待死事件の父親が41歳、6月に家庭内暴力と引きこもりのあげく農水事務次官の父親に殺された息子が44歳、9月の東名あおり事件のエアガン男が40歳と、注目の事件に同年代が続出したことも手伝ったのかもしれない。前年には41歳のブロガーが43歳の無職にネット上の揉め事で刺殺されている。 私にとっての団塊ジュニア・氷河期世代のキーワードは「競争」である。 人口過多による過度の競争は団塊ジュニアを受験戦争、就職戦争に駆り立て、ときに他者を蹴落とし、ときに他者によって蹴落とされた。今とは比べ物にならないほど少ない大学の数に比しての受験人口の多さから大学受験は狭き門となり、偏差値50程度の高校なら大学全落ちの合格大学ゼロは当たり前、苦労して入っても卒業時にはバブルははじけ、就職氷河期となっていた。運良くそれを乗り越えた者も四大証券のひとつだった山一證券が自主廃業を決めたことにより起きた山一ショック(1997年)、米孤高の投資銀行リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻したことに始まった世界規模の金融危機リーマンショック(2008年)と相次ぐ淘汰の波に晒された。「しくじり世代」のしくじりとは、自己責任ではどうにもならないことの積み重ねで起きたものが多い。仕事、恋愛、結婚など、子供のころに大人たちから「真面目に普通にしていれば手に入れられる」と聞かされていたのに、まったくそうはならなかった。連なる不運に見舞われ挽回の手段をつかむ競争も熾烈で、そこでも失敗して「しくじり」を重ねる結果になった人も多い。普通が普通でなくなったことでしくじらされたというわけだ。もちろんこれは自己認識の問題であり、本書の登場人物は「全然しくじってない」という意見もあったが、それは当然で社会保障、福祉の範疇に当てはまるような方々は入れていない。それは世代に関係なく一定数存在するはずで、世代論をあいまいにしてしまうのであえて外している。 ドキュメント『しくじり世代』には、そうした競争世代の中で蹴落とし、蹴落とされ、そしてしくじったサバイバーが15人登場する。もうおじさんおばさんだというのに競争を、上昇志向をやめない団塊ジュニアの叫びである。地方名門公立高校や有名大学を出たにも関わらず、就職や結婚という旧来当たり前とされたレールに乗ることが出来ずに脱線した連中や、あるいは青春時代に底辺高校でヤンキー文化に染まり、いまだに一発逆転を夢見ているような連中である。 青葉はその一発逆転を夢見た後者にあたる。私は拙著『京アニを燃やした男』で青葉の出生から今回の愚行までの生涯を追ったが、彼は端から団塊ジュニア上位による競争とは無縁の「非正規」人生である。非正規、これも団塊ジュニアの重要なキーワードであり、その中の一人が青葉である。 青葉は生まれながらの殺人鬼ではない。埼玉県浦和市(現さいたま市)に生まれ、貧しい父子家庭ながらも地元の定時制高校に通い、高校卒業まで役所の臨時職員で家計を支えた。しかし役所は派遣会社を使うことになり青葉は雇い止めをくらい、卒業後は春日部市のアパートに一人暮らし始め、時給のいいコンビニの夜勤で働いた。そして労働者派遣法の規制緩和による派遣全盛期に実入りのいい派遣の道を選んだ。しかしリーマンショックによりバブルは弾け、食い詰めた青葉は再婚して地元に戻っていた母親を頼り、ハローワーク経由で雇用促進住宅に入居、2009年ごろ、郵便局で非正規のゆうメイトとして働く。 職選びに関しても青葉は見事なほどのしくじりぶり、団塊ジュニアの負け組における典型的な転落の地雷をこれでもかと踏み続けている。 いつしか青葉は一発逆転を夢見て小説を書き始める。青葉はワナビであった。 ワナビとは、英語のスラングwanna be、want to be(~になりたい)をあえてカタカナ表記した言葉で、「何者かになりたい」人のこと、とくに作家志望者のことを指すネットスラングのひとつだ。ここでいう小説とは純文学や一般小説ではなく、いわゆるライトノベルのたぐいである。 青葉は2012年にコンビニ強盗で逮捕された後に収監された刑務所内でも書き続け、出所後に京アニの賞に応募、それがパクられたと思い込み、今回の事件を引き起こす。青葉の夢は「大金持ち」であった。コミックほどではないがラノベにも一獲千金の夢がある。もっと下の世代なら動画投稿者など他のネットを中心とした手っ取り早い一発逆転を考えそうなものだが、あくまで作家として王道の受賞デビューを目指した。この辺、昭和の残滓である団塊ジュニアならではの旧来価値観から抜け出せない愚直さが青葉にはある。というか基本的に不器用だ。『京アニを燃やした男』でも当時の同級生から話を聞いているが、青葉はジャンプを読み、ファミコンに興じ、ガンプラを作る、1980年代の典型的な団塊ジュニアのどこにでもいる少年であった。この点で私たちと何ら変わることはない。背が高くスポーツも得意だった。貧しかったといっても社会保障的な貧困と定義するほどでもない。しかしバブル後の社会に高卒非正規で放り出され、長きにわたる氷河期によってしくじり続け、今回の事件に至った。 この青葉の帰結は極端だが、私たちもバブル崩壊後に放り出され(高卒の団塊ジュニア1期は違うが)、今や大なり小なり差が出来た。「サザエさん」のマスオや「クレヨンしんちゃん」のひろしはギャグ漫画の立ち位置として可哀相なサラリーマンのお父さんだったが、いつしか「勝ち組」と呼ばれるようになった。団塊ジュニア・氷河期世代には当たり前の正規職も、当たり前の結婚も、当たり前の我が子もいない層がひしめいている。下手をすると肉親とも疎遠で孤独の中かもしれない。 青葉も高校を卒業してすぐ、父親が自殺したあげく兄弟はバラバラ、孤独の中で40歳を迎えた。40歳といえば正社員のサラリーマンとして毎日満員電車に揺られ、うるさい妻がいて、生意気な子がいて、小さなマイホームにマイカーくらいはあって当たり前と私たち団塊ジュニアは思い込んでいた。いや、むしろそんな平凡な人生に落ち着くのは嫌だったかもしれない。だが、いまやすべて揃えるのは高値の花となってしまった。平凡でつまらないと思い込んでいた自分の親すら越えられないなんて! 残念ながら、旧来の成功価値観としての挽回は無理な人もいるだろう。それは匿名掲示板で学歴マウントやヘイトを垂れ流したところで解決などしない。「しくじり世代」もそんな大人こどもだらけである。何度も書くが、もう40代のおじさんおばさんなのに。 青葉は間違いなく私たちと同じ団塊ジュニアであり、結果の特殊性はともかく、多くの同世代とともにしくじった氷河期世代である。同じにするなと言うかもしれないが、現実である。 それにしても、しくじりの真の恐ろしさは孤独である。昨今は孤独礼賛の向きもあるが、とても恐ろしいことだ。 なぜなら、こんなしくじり続けた青葉にも寄り添う者はたくさんいた。面倒を見続けた母親、保護司やスタッフ、定時制の先生たち、瀕死の火傷から救ってくれた医療スタッフに「こんなに優しくされたのは初めて」などと言う前に、すでにいたはずの彼らに気づけなかったこと、その未熟な社会性と感受性の欠如こそが、責任を転嫁し続けた不遜な被害者意識による孤独こそが妄想を生んだ。 孤独は時にローンウルフを生み、結果京アニ事件のようなジェノサイドすら生み出す。これは私たち団塊ジュニア・氷河期世代にとって他人事ではない。もう私たちは40代、先は長くない。しかしまだ40代、これから中高年、高齢者として折返しの地獄を経験することにもなる。団塊世代と同じように、その数の多さと少子化による人口ボーナスを享受する老人として非難や蔑視を集めるエイジズムの対象となるだろう。 そして、これからもしくじりは待ち受ける。その地獄はもはや社会に対する転嫁や若いころの恨みつらみで乗り越えられるような試練ではない。ましてや団塊世代ほどの世代連帯もなく、手厚い年金も望めないであろう私たちは、このままでは改めてしくじった者から順に各個撃破されるだろう。 青葉の末路は特殊だが、青葉の歩んだ時代は私たちそのものである。だが私たちは青葉になってはいけない。独りよがりの孤独は私たちにも必ずいるであろう良き肉親、良き友、良き他人に気づき、時に頼り、時に感謝することできっと乗り越えられる。そのような他者は誰にでも必ず存在する。私たちがしくじるとするなら、それに気づいていないだけなのだ。これまでしくじったとするなら、それに気づけなかっただけなのだ。そんなことでと思うかもしれないが、シンプルな幸せを忘れたところにしくじりがあるのだ。それならそれでしくじりを認めよう。認めた上で先に進もう。 そして団塊ジュニア・氷河期という困難を生き抜いてきたことに誇りを持とう。偏差値の輪切りや昭和のルッキズムで比べられ続けた私たちは、今こそ自身の幸福を絶対視しよう。無意味なマウントや競争、くだらないヘイトをやめて相対的な自己ではない、絶対的な自己、幸福を求める先に、私たちしくじり世代の落ち着きどころがあるのだから。 もう団塊ジュニアが団塊ジュニアを殺す光景はまっぴらごめんだ。●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年9月、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。
2019.12.21 16:00
NEWSポストセブン
京アニ放火犯の「最先端治療費1000万円」は誰が払うのか
京アニ放火犯の「最先端治療費1000万円」は誰が払うのか
 36人が死亡した京都アニメーション(京都市伏見区)の放火事件から4か月あまり。全身火傷の治療で大阪府狭山市内の大学病院に入院していた青葉真司容疑者の事情聴取が、11月8日に始まった。「一番多くの人が働く第1スタジオを狙った」「どうせ死刑になる」。そう供述しているという青葉容疑者に対し、府警は回復を待って逮捕、取り調べを本格化する方針だ。 事件直後から意識不明状態が続いていた青葉容疑者は、当初入院していた京都市内の病院から大学病院に転院し、最先端の治療を受けていた(11月14日、京都市内の病院に再転院)。「大量の輸血、皮膚移植など、高度な集中治療が行なわれてきた。入院費を合わせると1000万円近い治療費が発生しているといわれている」(全国紙記者) 気になるのは、この治療費は誰が払うのかということ。北村法律事務所の北村明美弁護士が解説する。「逮捕、勾留後の治療であれば警察、つまり税金で払われますが、逮捕状が出ているだけの段階だと容疑者に支払い義務が生じる。ただ、これは『容疑者に支払い能力がある場合』のみ。なければやはり税金です。青葉容疑者は無職と報道されていますから、支払い能力があるとは考えにくい。よって税金から支出される可能性が高いでしょう」 仮に青葉容疑者に支払い能力があった場合、自己負担限度額以上の金額が払い戻される『高額療養費制度』などの制度は使えるのか。「原則として、なんらかの健康保険に加入している人が使用できる制度は、容疑者でも使うことが可能です」(北村弁護士) もし治療費が青葉容疑者に請求されても、高額療養費制度が使えれば、自己負担額は月あたり数万円程度になる。「死刑になる」と自ら口にする犯罪者にも優しい日本の医療保険制度に、割り切れない思いを抱く人は少なくないかもしれない。※週刊ポスト2019年11月29日号
2019.11.19 16:00
週刊ポスト
現場には多くの花が手向けられている
京アニ放火被害者たちの功績とあまりにも大きい損失
 平成以降最悪となった京都アニメーション(以下、京アニ)放火事件から1か月以上が経った。凄惨な事件の実態が少しずつ明らかになっている。「7月18日午前10時半頃、京アニのスタジオに侵入した青葉真司容疑者(41才)が1階にガソリンをまいて火をつけた。わずか数十秒の間に3階建ての建物中に黒煙が広がり、従業員の目の前は真っ暗になったそうです。『火事だ!』という叫びや声にならない悲鳴の中、必死の思いでベランダにたどり着き、4~5mほどの高さを飛び降りて一命をとりとめた人もいます。とにかく黒煙の回るスピードが速く、生存者は『避難訓練や消火器はまったく役に立たなかった』と一様に口を揃えています」(全国紙社会部記者) 黒く煤けた外壁と焦げ臭さがいまだに残る現場近くには8月末まで献花台が設置され、多くの人が訪れた。京都市の36才女性が語る。「6才の甥が大好きな映画『魔女の宅急便』の制作に京アニが参加していたことを先日知りました。甥が愛する作品に携わったかたがたに手を合わせたいという一心で、折り鶴を持ってきました」 中国から来たという52才女性も沈痛な表情でつぶやく。「26才になる息子が京アニの大ファンなんです。今日は、『京都旅行をするなら献花してきてほしい』と息子に頼まれて、ここに来ました」 事件現場だけでなく、作品の舞台となった各地でも、悲しみに暮れる人々が集う。「事件後は、ロケハン現場に置いてある交流ノートに記入するファンの数が3~4倍になりました。みなさん涙ながらにメッセージを残されています」(アニメ『たまこまーけっと』の舞台となった京都・出町桝形商店街の元組合理事長・井上淳さん) 反響は世界各地に及び、アップル社のティム・クックCEOや台湾の蔡英文総統らが哀悼の意を表した。日本からはミュージシャンのYOSHIKIや、お笑いコンビ・霜降り明星の粗品らが寄付を申し出た。8月16日時点で寄付額は19億9761万円に達するという。 政府は京アニ再建のため、同社や被害者への寄付について、税制面の優遇措置の検討に入った。異例の処置である。◆両親に映画招待券を送り続けた息子 京アニ人気を確立した『涼宮ハルヒの憂鬱』で演出を担当し、女子高生の日常を描いた『らき☆すた』では監督を務めた武本康弘さん(47才)も犠牲者のひとり。「小さい頃から自慢の息子でした」と振り返るのは武本さんの父・保夫さん(76才)だ。「とにかく素直で明るい子で、学校の成績もよかったんです。小学生の頃から絵を描くのが好きで、友達の年賀状1枚1枚にドラえもんを丁寧に描いていた。同級生はそれを楽しみにしていて、今でも宝物にしてくれる子もいるみたいです」(保夫さん・以下同) 武本さんは就職後、京アニが制作した映画の招待券を欠かさず両親に送っていた。「いつも家内と一緒に見に行きました。映画館は若者ばかりで場違いな気持ちにもなったけど、若い子らが息子の作った作品を楽しみに映画館に来て、喜んで見てくれるのを目の当たりにしていつも誇らしい気持ちになりました」 日常生活の細かな描写に徹底的にこだわり、アニメの可能性を広げた武本さんは、京アニの取締役を兼ねながら数々のヒット作を手がけた。『らき☆すた』は、ファンが映画の舞台を訪れる「聖地巡礼」ブームの先駆けとなった。 家庭では小学2年生の娘を持つよきパパだった。 事件後、「お父さんはいつ帰ってくるの?」としきりに尋ねる孫に、保夫さんは「今は病院だよ」と答えたという。「通夜と告別式が終わり、孫も父親が亡くなったことを理解しているようです。今は精神的なショックで、ひとりでトイレに行けなくなったと聞いています」 原画や動画を担当し、人気作の『氷菓』や『たまこまーけっと』などの制作にかかわった宇田淳一さん(34才)も幼い娘を残して旅立った。 職人気質の宇田さんは1枚1枚の絵をコツコツと丁寧に描き、放送後にも細かなチェックを繰り返した。現在1才の長女が生まれてからは、“娘が将来、作品を見た時に話せるようにがんばる”と夢を語っていたが、残念ながら帰らぬ人となった。 気鋭のクリエイターとして将来を嘱望されていた西屋太志さん(37才)。「アニメの根幹をなすキャラクターデザインを担当していて、水泳男子の肉体美を描いた『Free!』や、聴覚障害の主人公を描いた『聲の形』(こえのかたち)などの作品が高く評価されました。精鋭揃いのスタッフの中でも未来を担うとされる人材と注目されていました」(制作会社関係者) 今年4月25日のブログで西屋さんは、劇場版『Free!』の制作に向けて、熱い期待をこう綴っていた。《みんながどこまで行けるのか、どんな未来にたどり着くのか、自分も楽しみです。今もまた、どっぷりと『Free!』に浸かっています》 西屋さんが楽しみにしていた未来は無残にも奪われた。◆「手描き」にこだわる理由『無彩限のファントム・ワールド』や『小林さんちのメイドラゴン』など、多くの作品で美術監督を務めた渡邊美希子さん(35才)は、真面目で気遣いを欠かさない人柄で誰からも慕われていた。 京アニが開設する「プロ養成塾」で講師を務めていた渡邊さんは、京アニが「手描き」にこだわる理由について、こう述べていた。《手描きの背景画を教えているのは、その先に誰かを感動させる背景画がある事を知っているからです。一幅の絵画のようでありながら、生活そのものを描き切ってみせる、アニメーション背景ならではの感動がそこにあり、学ぶ価値があると、信じているからです》 京アニを愛し、自らの仕事に夢と希望と誇りを抱きながら、よき家庭人でもあった人たち。約束されたはずの未来が突然絶たれた無念さは筆舌に尽くしがたい。 京アニの「命」でもある美しい色彩表現の中核を担いながら犠牲になった石田奈央美さん(49才)の母親は、本誌の取材にこうつぶやいた。「1か月経とうが、1年経とうが思いは変わりません。娘がいないという現実と気持ちの折り合いがつきません」 失われたものはあまりにも大きい。※女性セブン2019年9月12日号
2019.08.30 16:00
女性セブン
放火された京都アニメーション第一スタジオ(時事通信フォト)
京アニ事件から考察、心神喪失者への「人間観」のあり方
 凶悪な事件の容疑者に「精神科への通院歴あり」と報じられると、果たしてこの人物に罪が問えるのかという問題が浮上する。刑法では心神喪失者について39条に規定があるが、いったいどんな人間だと考えればよいのか。京都アニメーション放火事件から、評論家の呉智英氏が心神喪失と法律が定める人間について考えた。 * * * 京都アニメーションの大惨事に、日本中から強い関心と怒りの声が挙がっている。そのうちの一つが、現時点で死者三十五人、負傷者三十三人もの被害者を出しながら、容疑者の青葉真司はなぜ手厚い治療を受けているのか、という批判だ。しかし、これは間違っている。青葉への治療は、事件の全容解明のために必要であり、彼に賛同し支援しているわけではない。 とはいえ、そういった怒りの声が出るのは、今後の捜査、起訴、判決への懸念が、誰の脳裏にも浮かぶからだ。心神喪失により無罪となる可能性がありうるのだ。 この問題は、類似の事件が起きるたびに浮上してくるのだが、本質的な議論に進まないまま、うやむやになってしまう。 心神喪失とは、精神障害によって善悪の判断や意志能力を欠くことだ。心神喪失者は、社会的・法律的行動を取ることのできる一般人の枠を外れた「埒外の人」である。これを法律は罰しえない。 法律は、法を犯した人を罰する。人を殺せば殺人罪に問われる。しかし、海で泳いでいた人が溺れて死んだ場合、海を刑務所にぶち込んだり死刑にすることはできない。海は「人」ではなく「物」だからである。山から岩が落ちてきて人が圧死した場合も同じ。行政当局の管理責任を問うことはありうるが、海や岩には何の責任もない。海や岩に善悪の判断能力や意志能力はないからだ。 それなら、心神喪失者は海や岩と同じ「物」だとしていいのだろうか。当然、違うという意見が出るだろう。なぜならば、心神喪失者は人であって物ではないからだ、と。心神喪失者は人間としての遺伝子を持ち、年齢や体質などの条件がよければ子供を作ることができる。つまり、人間の同胞なのだ。 では、同胞ではない人間がどこかにいた場合は、どうか。原人・猿人の生き残りが、ジャングルかヒマラヤ山地に住んでいる可能性は否定できない。ネアンデルタール人は何万年も前に現生人類と交雑し、我々の遺伝子にネアンデルタール人の遺伝子が混じっている、という研究も最近出てきた。そうであれば、ネアンデルタール人は我々の同胞である。 だが、五十万年前に生きていた北京原人や百七十万年前に生きていたジャワ原人は、現生人類との交雑は確認されていない。この人たちの生き残りが発見された場合、人間の同胞としていいのだろうか。この人たちが石斧で人間を殴り殺した時、「人」だから有罪にするのか「物」だから罪を問わないのか。 我々と同等か、あるいはもっと高度の知能や判断力を持つ宇宙人が地球に来た場合は、どうか。彼らが光線銃で人を殺した場合、宇宙「人」だから裁判に掛け、刑務所に入れることができるのか、あくまでも宇宙人という生「物」なのだから責任はないとするのか。 私は冗談を言っているのではない。法の根本にある「人間観」に矛盾や限界や亀裂はないか、と問うているのだ。●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。※週刊ポスト2019年8月16・23日号
2019.08.05 16:00
週刊ポスト
【動画】京アニ放火犯 犯行後、ぬけぬけと助け求めていた
【動画】京アニ放火犯 犯行後、ぬけぬけと助け求めていた
 34人のアニメーターたちの命が奪われた「京都アニメーション」スタジオの放火殺人事件。火を放った張本人である、青葉真司容疑者の放火直後の様子が明らかになりました。
2019.07.30 07:00
NEWSポストセブン
京アニ被害者、友人に「今後何回もエンドロールに名前載るよ」
京アニ被害者、友人に「今後何回もエンドロールに名前載るよ」
 単独犯による犯行で戦後最大の被害者を出した京都アニメーション放火事件。34人の命を奪ったのは青葉真司容疑者、年齢は41才だ。 事件発生後、初めての週末。事件現場からは人の姿が途絶えることがなかった。3階建ての建物は一目で、中が全焼していることがうかがえる。ベージュのタイル貼りの外壁は黒く煤けていて、窓枠やベランダの手すりは、ぐにゃりと曲がっている。近づくと、焦げたようなにおいが鼻をつく。献花台に花を捧げ、頭を垂れる人たちには、外国人や若者の姿も目立つ。 アニメ制作会社は、NHKの朝ドラ『なつぞら』の舞台でもあり、注目を浴びる存在でもあった。特に京アニは、多くのヒット作品を生み、優秀な人材を輩出するなど、アニメ業界でも一目置かれるアニメーターたちの夢の会社である。 亡くなった34人、負傷した34人(7月23日現在)は、ここに至るまでそれぞれの道を歩んできた。 献花台から少し離れたところで、小柄な老いた女性が肩をふるわせていた。握りしめた花束に顔を埋めて嗚咽を漏らし、何度も深呼吸をしている。短い髪には白髪が交じっている。「昨日も来たんやけど」と語る79才の女性は孫を失った。「花が好きな子やったからな。絵も好きで。私は反対してたんです、もっと普通の仕事をしたらと。でも本人は絵がやりたいと。ここで仕事をして、もう5~6年になるのか。最後に会ったのは4月やったんですけどね。そんなに深く話もできてなかったのに…人様になんの迷惑もかけていないのにあんな死に方なんて…たまりません」 涙を止めることのできない若い女性は、高校時代の友人“メグ”を奪われた。「『京アニに入れた』って喜んでいたし、私たちも『京アニに友達いるんよ』って自慢できた。事件の、前の前の日に、メグが友達と話していたんです。メグの名前が映画のエンドロールに載ったと聞いて、その友達が『それだけ見に行くわ』って言ったら、メグは『それだけのために来なくていいよ、これから何回も載るんだから』って…メグは、誰に紹介してもいい自慢の友達でした」 渥美敏彦さん(59才)は、静岡から駆けつけた。安否不明となっている取締役の木上益治監督は、学生時代の友人だ。「木上くんと出会ったのは40年以上前、東京デザイナー学院に入学した時です。寮の部屋が同じで仲よくなり、6畳一間の、家賃3万円くらいのアパートに一緒に住んでいた時期もあります。話題はアニメのことばかりですよ。木上くんが“『未来少年コナン』の動きはすごい!”と言ったのをよく覚えています。 彼は飛び抜けて絵がうまかった。デッサン力が違うんです。当時、アニメはまだ世間では遊びの延長という扱いでしたが、彼のアニメへの思いは人一倍強かった。彼とは同級生ですが、年は彼が2つ上なんです。なぜかというと、高校卒業後に、上京資金を貯めるために2年間アルバイトをしていたからです。念願叶って上京してからも、授業が終わると夜はガソリンスタンドでアルバイトをしていました。 最近は『なつぞら』を見て、当時のことを懐かしく思い出して、木上くんも元気にしているかなと思っていたのですが。才能があり、夢を叶えた木上くんが…残念です」 罪のない多くの命を奪った青葉には、精神科への通院歴があったと報じられている。精神疾患が認められると、責任能力を問えない可能性があるという。弁護士の萩尾健太さんが語る。「心神喪失ならば責任無能力となり、心神耗弱なら限定責任能力となり減刑されることになります。精神病院への入院が必要と判断されれば逮捕や勾留すらされません。逮捕されず刑も軽くなると聞いて納得いかないと思う人もいるでしょうが、措置入院などは閉鎖病棟で自由を奪われる点では勾留や禁錮に近い」 現在、自身がつけた火によって生死を彷徨っている青葉。彼には罪を償う義務がある。※女性セブン2019年8月8日号
2019.07.27 07:00
女性セブン
京アニ放火犯、下着泥棒やコンビニ強盗から放火に至るまで
京アニ放火犯、下着泥棒やコンビニ強盗から放火に至るまで
 34人が亡くなった京都アニメーション放火事件。火を放ったのは青葉真司容疑者、年齢は41才。事件現場からは数百kmも離れた茨城県常総市で、3人きょうだいの次男として生まれ育った。 ハンサムでモテたという青葉の父親は、金にも女性関係にもだらしなく、子供たちのことは放ったらかし。勉強もさせていなかったという。小学生の頃は周囲から“普通の子”と思われていたという青葉。しかし、中学2年生のときに引っ越すこととなる。原因は、父親の私生活。家賃滞納で追い出されたという。 転校した中学校で青葉はなじめず、不登校になったという。卒業アルバムの集合写真では、欠席者扱いされている。 定時制高校を経て就職した青葉はひとり暮らしを始めた。埼玉県の非常勤職員、新聞配達やコンビニの店員などの職に就くが、どれも長続きしない。この頃の彼からは、かつての“普通の子”の面影は消えていたと考えられる。 2006年、第1の事件を起こす。「下着泥棒です。実はこの頃、青葉の父親が亡くなっています。住んでいた部屋を出るに当たっては、ずっと離れて暮らしていた母親が滞納していた家賃を支払ったそうです」(社会部記者) その後一時期、生まれ故郷近くに舞い戻る。「ハローワークからの紹介で仕事をする条件でアパートに住んでいましたが、近隣トラブルは絶えなかった。主に騒音です。ゲーム音楽のような曲を大音量で流してわめいたり、壁を何度もこぶしで殴っているような音がするとか。夜中に目覚まし時計をセットして1時間近く鳴らしていたこともあった」(管理人) ここで暮らしていた2012年、青葉は第2の事件を起こす。コンビニ強盗だ。前出の管理人は自宅の現場検証に立ち会った際、衝撃を受けたという。「彼の部屋は食べ物の空き容器が散乱していて、部屋の壁に2、3か所、大きな穴が開いていました。ハンマーを振り回したのです。ベランダ側の窓も割れていました。赤いノートパソコンは画面が粉々に割れていた」 この事件で懲役3年6か月の実刑判決を受けた青葉は、服役後、さいたま市にある保護施設で暮らした。保護施設では、働き口の有無を問わず半年で退所を余儀なくされる。青葉は施設を出ると近所のアパートで暮らすようになる。収入源は生活保護である。 2017年頃から住み始めたアパートでも騒音トラブルは絶えなかった。毎夜午前0時4分に目覚ましを鳴らすという昼夜逆転生活を送り、ネット掲示板への書き込みに執心し始めたという。昨年秋頃、京アニに対し、「自分の作品をパクられた」「テロを起こす」などの書き込みがインターネット上の掲示板で見られたが、これが青葉によるものだと指摘されている。 青葉の半生を精神科医の片田珠美さんはこう分析する。「青葉容疑者は2012年にコンビニ強盗で逮捕され服役し、近隣住民とトラブルを起こすなど、孤独で欲求不満がたまりやすい人生を歩んできた。無差別殺人犯には、過去の例を見ると、孤独と欲求不満、そして『自分の人生がうまくいかないのは他人のせいだ』と思い込む他責的傾向といった共通点があります。青葉容疑者の、近隣トラブルや物に八つ当たりする行動を見ると、この傾向も当てはまります。 京アニが狙われたのは、青葉容疑者がもともとアニメに強い執着があり、作品に感情移入するうちに『自分の考えが抜き取られた』という被害妄想を抱いたためではないでしょうか」 事件の4日前の昼、青葉はすでに無差別殺人を決意していたのかもしれない。隣人がその一部始終を明かす。「別の部屋の物音なのに原因は私だと思い込み、私の部屋の壁に物を投げたり、ドアのノブをガチャガチャ回したりしてきました。説明をしようとドアを開けて目が合った途端、胸ぐらをつかまれ“お前、殺すぞ!”とすごまれました。殺気立っていて、本当にやりかねないというか恐怖を感じました。“こっちはもう余裕ねえんだからな!”とも叫んでいて、その後にこの事件なのでゾッとしました」 青葉が京都に向かったのは、この翌日とみられている。※女性セブン2019年8月8日号
2019.07.26 16:00
女性セブン
京アニ放火犯、現場で近隣の呼び鈴鳴らし助けを求めていた
京アニ放火犯、現場で近隣の呼び鈴鳴らし助けを求めていた
 よれよれの赤いTシャツを着た巨漢は、脇目も振らずに台車を押していた。ガソリンスタンドに着くと、20リットル入る携行缶2つにガソリンを入れようとする。従業員が「何に使うんですか」と尋ねると、男は面倒くさそうに「発電機に使う」とだけ答え、現金で料金を支払うと、重くなった台車を押して出ていった。 京都アニメーション(通称・京アニ)第1スタジオは、そのガソリンスタンドから500mほどの距離にある。すぐ側までやってくると、男は携行缶の中身をプラスチック製のバケツに移し始めた。 その前日の7月17日夕方、現場に近い京阪電鉄宇治線沿いの公園で、男は少年に目撃されていた。「友達と遊ぶ約束をしていて、午後4時頃に公園に行ったら、ベンチの上に寝そべっているおじさんがいました。赤い服にジーパンで、その人の横には台車がありました。上に置いてあったものには、カタカナで“ガソリン”って書いてありました」(目撃した9才の少年) この公園は道路の高架下にあり、雨を避けられる。「男は15日に京都に入り、現場を下見していた。インターネットカフェや公園で寝泊まりし、決行日を待っていたとみられます」(捜査関係者) 用意は周到だった。「ガソリンだけでなく、1mほどの巨大ハンマー、4~5本の包丁も持っていました。絶対に実行するという強烈な殺意を保っていたのでしょう」(前出・捜査関係者) ガソリンスタンドを出てから30分後の午前10時半頃、男はガソリンの入ったバケツを提げて、京アニの第1スタジオに入り込んだ。「『社長を出せ!』などと怒号を上げながら、1階の吹き抜け部分にある螺旋階段にガソリンをぶちまけた。携行缶には約30リットル分が残されていたから、10リットルはまいたはず。よく燃えるように着火剤まで使って、ライターで火を放ったようです」(前出・捜査関係者) 気化したガソリンは爆発的に燃えた。「男の“うぉー!”というような大声が響いて、その後、ボンッという爆発音がしました。その後に、聞いたことのないような悲鳴が続きました」(近隣住民) 火は瞬く間に3階建ての建物の中に広がった。螺旋階段が煙突代わりとなり、火の勢いが増してしまったのだ。中にいた人たちのうち、2階から飛び降りたりできたのはごくわずかで、大半の人は逃げることができなかった。 運よく逃げられた人の中に、火を放った張本人がいた。青葉真司容疑者(41才)だ。全身にやけどを負った青葉は、近隣住宅の呼び鈴を何度も何度も押していた。34人の命を奪った男は、ぬけぬけと助けを求めていたのだ――。※女性セブン2019年8月8日号
2019.07.26 07:00
女性セブン
京アニ放火容疑者、金と女にだらしないハンサム父親の素行
京アニ放火容疑者、金と女にだらしないハンサム父親の素行
 単独犯による犯行で戦後最大の被害者を出した京都アニメーション放火事件。34人の命を奪ったのは青葉真司容疑者、年齢は41才。事件現場からは数百kmも離れた茨城県常総市で、3人きょうだいの次男として生まれ育った。 青葉の父親は奔放だった。「あの子の父親は背が高くてハンサムでモテた。でも、どうしようもない男でした。奥さんとの間に6人もの子供がいて生活は大変だった。本業の農家だけじゃ食べていけないから、幼稚園のバスの運転手も始めたんです。そしたら幼稚園の保育士さんと不倫をして家を出ていった。最悪なのはここから。ある日残された妻子の元に不動産業者がやってきて立ち退きを求めた。父親が家と田畑を勝手に売っていたんです。奥さんと6人の子供は路頭に迷うことになったが、本人は知らぬ顔で再婚したそう。 その2番目の奥さんとの間に生まれたのが真司です。ほかに兄と妹がいます。たぶん6人の異母きょうだいとは会ったことはないと思う。再婚生活は10年もたなかったんじゃないかな。奥さんが愛想を尽かして出ていったようで、父親が3人の子を連れて埼玉に引っ越しました。普通は母親が子供を連れていくことが多いのに、そうせずに出ていったんだから、よっぽど嫌だったんでしょう。真司が小学校低学年の頃だったと思います」(青葉の親戚) 移り住んだ先で青葉は古いアパートに暮らし、兄と共に柔道スクールに通っていた。その頃から大柄で、将来は「大金持ち」になりたいと周囲に語っていた。当時の同級生はこう話す。「青葉の家に遊びに行き、彼が好きだという『ガンダム』のアニメを見ました。漫画の話もしたし、2才年上のお兄さん、妹も一緒に公園でサッカーや野球をしました。お父さんの姿を見たことはないですね。あと、青葉からお母さんの話を聞いたこともなかった。それ以外は、“普通の子”という印象でした」 しかし中学2年時に一家は引っ越しをする。原因はまたも父親の“私生活”だった。「父親は、ほぼ働かずにフラフラしていた。いわゆる“ヒモ”。何番目か知りませんが、奥さんらしき女性もいましたが、彼がフィリピン人女性と不倫したとかで、刃傷沙汰になったという話もありました。結果的に家賃を滞納し追い出されたようです。カネにも女にもだらしない男でした。 そんな親だから、子供たちのことはほったらかしでしたね。勉強はしていなかったみたいだし、柔道もとっくにやめていました。今で言うネグレクトですよ」(青葉家を知る近隣住民)※女性セブン2019年8月8日号
2019.07.25 16:00
女性セブン
アニメ制作会社「京都アニメーション」近くに新たに設置された献花台で手を合わせる人々(時事通信フォト)
京アニ事件 「世の中捨てたものじゃない」と感じたつぶやき
 事件が起きた際、匿名で発言できることをいいことに「言葉」が暴走することは何度となく繰り返されてきた。だが、今回は様相が異なったようだ。コラムニストのオバタカズユキ氏が考察した。 * * * 社長のぐだぐだ会見がしょうもなかった吉本興業の騒動に、れいわ新選組とNHKから国民を守る党が予想以上の票を獲得したこと以外、注目すべき点を探せなかった参議院選挙。それら2つのニュースでいったん話題としては下火になったが、7月18日に発生した京アニの事件は、今なお多くの人々の心をざわつかせている。 京都アニメーションの第1スタジオで火災が発生、建物が全焼し、34名もの死者を出すという平成以降最悪の放火事件。京アニは良質なアニメ作品を制作する会社として多くのファンに支持されており、事件の衝撃はとてつもなく大きく、深い悲しみの声、行き場のない怒りの声がネット上でも無数に発信され続けている。 勤務中にいきなり煙と火に襲われて亡くなった犠牲者のことを思うと、アニメに疎い私でも胸がぎゅーっと締めつけられる。遺族の方々の気持ちを想像するとやり切れないものがある。事件の解明はこれからだが、犠牲者に対してはただ哀悼の意を表するしかない。 その上で、今回の事件で気づいたことを申し上げたい。それはやり切れない事件の中で、かろうじて前向きに語れるネット上の反応のことだ。 事件発生の翌日、いくつかの報道機関が、「犯人には精神疾患がある」といった旨を公表した。その記事を読んだ瞬間、私は「これはマズイことになる!」と身構えた。「精神病患の患者=危険人物」というイメージが瞬時に広まり、ここぞとばかりに精神障害者差別の嵐が吹き荒れると思ったからである。 ところがそんな私の予想は、いい意味で裏切られた。ヤフーリアルタイムに「精神障害」「精神疾患」「精神病」などの単語を入れてツイッター検索しても、差別的なツイートがほとんど見当たらなかったのである。 この件について言及しているツイートは、「精神病だということで犯人の罪が軽くなるなどしたら堪らない」という内容と、「精神疾患と犯行を安易に結びつけるようなことはしないでほしい」という注意喚起の2パターンで大半が占められていた。前者はともかく、後者の声があちらこちらであがっていたのは、嬉しい誤算だった。 事件から5日ほど経ったこのコラムの執筆時現在、同じように検索をかけてみても、やはり精神障害者差別的なツイートはほとんどない。そのかわり、たとえば以下のような声があがっている。〈京アニ放火犯に精神疾患があったと報道されているが、精神疾患を持つ人々のほとんどはこのような凶悪な犯罪を犯す事は無いという事を再確認せねばならない〉〈精神疾患の方の凶悪犯罪について、パーセンテージが少ないから疾患と紐付けるのはちょっと…という人がいるけど、問題は疾患の有る無しに限らず、当人のリミッターが外れるまで放置せざるを得ない社会構造にあると思う〉〈京都アニメーションの放火犯の名前が公表されましたね。あと犯人が精神疾患だったという報道がされている。これでは精神疾患の人は犯罪予備者と偏見を持たれてしまうと思う。精神疾患だから事件を起こしたのではなく、青葉真司だから事件を起こしたのだと思います〉 こうした冷静なつぶやきが多いのである。匿名をいいことに弱者いじめを楽しむ輩がのさばる無法地帯、といったツイッターのイメージとは相当違う。また、以下のような当事者によるツイートもたくさん目にすることができる。〈精神疾患を抱えているものは、毎日薬をちゃんと飲んで、毎日規則正しい生活をして、質素に生き、大人しく暮らしている人の方が圧倒的に多い。京アニのこんな事件を起こす奴はただの凶悪犯だと思う。まともに治療している多くの人のために声を大にして言いたい!!!!〉〈京アニ放火犯のことを「オタクっぽい男」「精神疾患持ち」と安易に報道した報道の方は全力で全国のオタク及び精神疾患患者に謝っていただきたい。特に精神疾患な。新幹線の事件もそうだけど、これでさらに私たちの肩身が狭くなる〉〈放火犯が精神疾患だということ、今の段階で公表する必要ある?動機と深く結びついてる場合や裁判レベルで公表されるならわかるけど、まだ動機もわからない段階で言うべきことではないと、当事者として思います〉 以前からツイッターの世界には、メンタルヘルスに難を抱える人のアカウントが多いことは承知していたが、今回はそうした当事者たちがかなり積極的に発言している。その発言に好意的なリプライやリツイートをしている場合も多い。逆に、妙な難癖をつけたり、からかったりするツイートは皆無に近い。 軽はずみなもの言いをする者がほとんどいないのは、それだけ大規模で凄惨な事件だったからか。そうかもしれない。ただ、それ以上に、たくさんのアカウントが真剣で真面目な意見を発信、主体性を発揮している、といった印象が強い。そして、それぞれのツイートが互いに正の影響を与え合い、全体として健全な言葉が力を持つ世界を成立させている。 精神疾患関連のニュースが流れるとすぐに荒れがちなツイッターは、人間の心の奥に潜んでいる差別意識を顕在化させ、増幅させてしまう困った装置だ、という見方を私はしていた。だが、今回はそれとはまったく正反対で、良識や知性の言葉が行き交うコミュニケーションツールとしてのツイッターという側面を見させてもらっている。この世の中もまだまだ捨てたものじゃないんだぞ、と教えてもらえている。
2019.07.25 07:00
NEWSポストセブン
爆発火災があったアニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオ(時事通信フォト)
京アニ「大量殺人」引き起こした犯人の「被害妄想」
 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々を心理的に分析する。今回は、34人が亡くなった「京都アニメーション」放火事件の青葉真司容疑者を分析。 * * * 7月18日、アニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオを襲った放火犯の炎は、またたく間に34人もの尊い命を奪い去った。 平成以降最悪の放火殺人事件を起こした犯人は、さいたま市在住の青葉真司容疑者(41)。スタジオ1階でバケツに入れたガソリンをまいた後、「死ね」と叫びながら、火をつけたとみられる。 確保された際は「小説が盗まれたからやった」と話していたという青葉容疑者は、事件前から近所で目撃されており、現場近くにはハンマーや包丁が残されていたという。強い殺意を持っていたと思われるが、京都アニメーションの社長は「名前を聞いたことがない」と話し、一方的に恨みを持っていた可能性が高い。 逆恨み、自分勝手な思い込み、そんなもので、これだけの大惨参事を起こしたのか。ニュースを見る度に憤りとやりきれなさがこみ上げてくる。 青葉容疑者は、12年にも茨城県内のコンビニで強盗事件を起こしている。自首した際、「遊ぶ金が欲しかった。オウム事件の容疑者のように自分も逃げられないと思った」などと不可解な供述をしている。昼間はカーテンを閉め切り、活動は夜。青葉容疑者の印象を「口数も少なく大人しい」と語る人もいるが、住んでいた部屋では近隣住民とたびたび騒音トラブルを起こし、警察官が駆けつけたこともあったという。 それ以前にも、当時住んでいた集合住宅で真夜中に目覚まし時計を鳴らしたり、壁を叩いたり、大音量で音楽を流すなど、住民の苦情が絶えなかった。京都府警は、「精神的な疾患があるとの情報を把握している」と発表している。 これだけの情報しかないが、おそらく容疑者には、「妄想」があったのではないかと推測されている。精神医学で妄想は「訂正できない誤った考え」などと定義される。そこでここでは、渡邉和美・高村茂・桐生正幸編著『犯罪者プロファイリング入門―行動科学と情報分析からの多様なアプローチ』(北大路書房)にある、「妄想の周辺と犯罪者プロファイリング」を参考に、青葉容疑者についてみてみようと思う。 まず、妄想の定義の「訂正できない」の部分は、「自分が誤っているとはまるっきり思っていないため、訂正のしようがない」ことをいい、「誤った考え」の部分は「客観的にみて間違っていること」を指す。この本では、どのように誤っているかによって、妄想を「奇異な妄想」か「奇異ではない妄想か」で分けており、ここでの「奇異」は、「通常の文化の中ではありえないと考えられていること」と定義している。 奇異な妄想を持つ犯罪者のプロファイリングをみると、彼らの背景や生い立ちから鑑みても、私たちには理解できないことが多く、幻聴や活動性の低下、生活能力の低さが挙げられている。閉じこもりや清潔にできない、ゴミをため込むなどもあるらしい。実際、コンビニ強盗の後、警察の立会いで確認された部屋の中は、ハンマーで壁が壊され、ガラスが割られ、パソコンも破壊され、悪臭がするゴミ屋敷の様相だったようだ。 更にこの本のプロファイリングには、「現実を検討する能力は低く、犯行の手口、計画は稚拙で綿密さを欠き、隠蔽や逃走能力も低いため現行犯逮捕されやすい」ともある。容疑者は自身も全身に重いやけどを負い、現行犯逮捕されているし、犯行当日に寝ていたという近所の公園では、ガソリンの携行缶などが押収されている。犯行までの生活状況をみても、このプロファイリングに合っているように思う。 妄想の中でも頻度が高い被害妄想では、妄想が発展すると攻撃対象が人物から組織になり、精神的に追い詰められると攻撃がより凄惨なものになり、八つ当たり、無差別的な犯行の可能性が高くなるという。壁を何度も叩かれたという隣人は、犯行の数日前、容疑者に胸ぐらを掴まれ「殺すぞ。こっちは余裕ねぇんだ」と凄まれたと話している。 このような犯罪すべてが妄想によって引き起こされるものではないし、青葉容疑者に妄想があったのかも、まだ定かではない。ネット上では様々な憶測も飛んでいるが、なぜ、こんなことをしたのか、そこをしっかり解明し、法律できちんと裁いてほしいと願う。
2019.07.24 16:00
NEWSポストセブン

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