二・二六事件当時の渡辺邸南面。襲撃部隊が侵入した縁側部分の雨戸が開かれている(渡辺家蔵)

◆給料の大部分は「丸善」の支払いに

 渡辺錠太郎は、愛知県小牧の農家に生まれた。生家が貧しかったために、小学校もろくに通えなかった錠太郎は、友人の教科書を借りて独学で学び、陸軍士官学校を受験したという。初の本格評伝となる新刊『渡辺錠太郎伝』(小学館)が話題となっている歴史研究者の岩井秀一郎氏が、「小卒」から「陸士」へ入ったことの意義を解説する。

「生まれ育った小牧や岩倉では、地元の研究者らが伝記を編み、その中で独学で刻苦勉励を重ねた渡辺錠太郎を『明治の二宮金次郎』と評しています。当時の陸軍士官学校は、官費で通えることもあって、全国から極めて優秀な学生たちが数多く受験するエリート校でした。地元では“小卒”が陸士を受験した試しはないとして、願書を門前払いしようとしましたが、錠太郎はそこに果敢に挑戦し、その地区でトップの成績で合格します」

 陸軍大学校も首席で卒業し、「恩賜の軍刀」を受けた錠太郎は、陸軍に入ってからも勉強熱心だった。書店の「丸善」で軍事書などの洋書を買い求め、当時最先端の情報を学んでいた。そんな錠太郎を評して、「陸軍の文学博士」「学者将軍」などと呼ぶ声もあったという。いずれにしても、その読書量は尋常ではなかった。

「錠太郎と親しかった朝日新聞記者の高宮太平は、『読書と戦術の研究に日夜没頭し、月給の大部分は丸善の支払に充てていた』と記録しています。実際、他の証言でも本の購入費が家計を圧迫するほどだったとあり、錠太郎の新刊書漁りは有名だったそうです」(岩井氏)

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト