講談師一家に生まれ育った一龍斎貞鏡さん
江戸時代の辻講釈をルーツとする講談は江戸末期から明治中期にかけて全盛を極めた。400年の歴史を持つ講談の最大の魅力は何かと問うと、貞鏡さんは「迫力、美しさとたくさんありますが、私はお話の面白さだと思います」と即答する。
「赤貧時代に受けた恩義を決して忘れず、苦労して出世したのちにその恩義を返す武士や、武家屋敷だけをねらって庶民の味方をする義賊、男をたぶらかせてカネを巻き上げたうえにぶち殺す毒婦、主君を陰で支えた家臣や心を鬼にして聖人君子を育てた母親など、講談には笑いや涙を交えたいろいろな話があります。日本各地の土地にまつわる話も多く、『生まれ故郷にこんな人がいたんだ』『地名にこんな由来があったのか』と知ることもできます。
とくにいまの若い女性には、数々の悪事を働き、啖呵を切って男を翻弄する『高橋お伝』などの“毒婦”の話が受けますね。みんな怖いもの見たさだったり心のどこかで悪女に憧れているけど、実際に自分にはできないからかもしれません。私も良妻賢母の話よりも毒婦の話のほうが感情移入できるけど、高座で毒婦ものをやると『この講談師は本当に悪い女だ』と思われます(笑い)」
今回、真打ちとなった伯山は「100年に1人の天才」、「時代の寵児」と称される。30代半ばにして講談人気を牽引する伯山のすごさについて、貞鏡さんは「後輩が語るのは失礼ですが……」と遠慮しながらこう語る。
「兄(あに)さんは体力があり体が大きく肺活量が多く大きな声を出せます。男性らしい迫力ある講談ですので女性の私にはかなわないところもあると思います。お客様の心をガーっとつかんで引っ張り、聞かせるところはしっかり聞かせて、笑わせるところは大いに笑わせる。ふり幅の大きさもすごい。よほど稽古しないとあそこまでの高座はできないはずで、本当に尊敬します」